海の青と月の気持ち 〜 QUEEN
遠出
『ねぇ、マルコ。今日はちょっと遠くまで行ってみてもいい?』
「お前の『ちょっと』は、どんだけだよい」
笑い声と共に、勝手に行き先や土産の話を始める仲間たち
『んー、この島が見えなくなるくらい?』
「なんだ、その程度なら半日で行って帰って来れるよい」
『どこか目指すんじゃなくて、適当に飛んでも帰り道わかる?迷子とかに....』
「ならねぇよいっ!」
2、3日迷子になってもいいからな、という声に送られて今日も不死鳥が飛び立った
「なんで、もやもやしてんの?」
「ゆぅが迷子にとか言うからじゃねぇかよい」
「ふふっ、ごめんね?プライドが傷ついちゃった?」
「そんなんじゃねぇよい。ほっとけよい」
クスクスと楽しそうな気配のゆぅにふぅとため息が出る
迷子になったことにして、このままどこかへ行ってしまいたい。ゆぅを一人占めにして、ゆぅのことだけを考えていたい
ゆぅを手に入れられたら、こんな自分勝手な思いに囚われることもなくなるんだろうか
ゆぅに好きなように飛ばせていようが、帰りの方向を確認しながら飛んでしまうのはもう無意識の事で、長い間に身についた習慣を、今は恨めしく思うマルコだった
「あ!マルコ、船!」
空と海と水平線だけの世界に一つの小さな点を見つけたゆぅに、マルコはそちらへ意識をむける
「朝からゆぅがワクワクしてたのはアイツだったのかよい」
「そうね、きっと!あんまり近づいたら、驚かせちゃうかな?」
「高く飛んでりゃ、ただの鳥にしか見えねぇよい。行きたきゃ行けよい」
「やったぁ!」
高度を上げながらグングン近づいていくゆぅはとても嬉しそうで、鼓動まで高まっているようだった
「あぁ、海賊船だったのかよい。そりゃ、ゆぅのテンションも上がるわけだよい」
ドクンと一度衝撃を受けたあと、何も話さないゆぅ
帆はたたまれているし、この距離では旗に描かれているだろうものも見えないが、商船などではないことは同業者としてわかる
甲板に米粒より小さい人影がいくつか見える
「どうするよい?一応、俺もそれなりの海賊だからねい。鼻先を掠めて脅かしてやっても構わねぇよい」
高揚したゆぅの心につられたのか、久しぶりの身内以外の海賊だからか、マルコの心がウズウズとざわめき始める
「ううん、いい。なんか、見た事ある気がするから乗った事があるのかも....うふふ、アタシに再会できるなんて、そうそうないんだからね?」
「俺たちは特別ってことかよい」
「そういうこと。今日はコレ見つけたから、もういいや。帰ろ?ってどっちか分かる?」
「あー、分かんねぇよい。ゆぅが責任をもって帰ってくれよい」
「そんなのウソってわかるんだからね?」
2人で笑い合いながら、島へと向かう
ドキドキとウズウズを残したまま
「進路変更....あっちだ」
甲板からこちらを見上げる者がいたことなど、2人が気付くことはなかった....
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