海の青と月の気持ち 〜 QUEEN
彼らの望み
翌日、太陽の光が茜色に変わり始めたころ、ゆぅはそっと浅瀬に現れた
島にいる白ひげ海賊団たちを見る表情は、感情こそないものの柔らかく温かい
ゆぅに気付いて次々浜辺に集まる彼らだったが、相変わらずの気配に一定の距離を詰める事ができないでいる
まるで石像にでもなってしまったかのように、微動だにせず、変わらぬ表情のままのゆぅは、何一つ言葉を発する気配がない
「お、俺は海賊、続けるぞ!」
誰かの叫びにも似た宣言が聞こえると、次々に声が上がる
夢を探す者、思いのある島へ行く者、強さを求める者、まだ時間が必要な者....様々な思いが浜辺に溢れ、重なり、混じり合う
夕日が沈み、残光が水平線近くに残るだけとなった時、ゆぅは静かに後ろへ下がり始めた
「ゆぅが言ったからじゃねぇぞ!」
「そうだぞ、ただのきっかけってやつだ!」
彼らの言葉がゆぅへの言葉に変わる
「だから、無理矢理いなくなるな!」
「来たけりゃ来ていいからな!」
「我慢ばっかしてんじゃねぇぞ!」
「妹だろうが母親だろうが、ゆぅは俺たちの家族だ!」
「会えるうちに甘えに来い!」
心に積もるばかりの強く温かい....思いやり
いよいよ陽光がなくなるその時。ゆぅとの距離を破り、波打際まで駆け寄った大きな影
「ゆぅ!お前だって、もっとちゃんと自分の事を考えろ!それも俺たちの望みだ!」
ジョズの言葉とともに海が暗闇に閉ざされ、ゆぅの姿は溶けるように見えなくなった
最後に残った、真珠がこぼれるような光
きっと、明日も、来る
ゆぅの涙に彼らは確信した
翌日、マルコが帰って来たのは、日付が変わるまであと数十分という時間
結局、明るいうちにゆぅが現れることはなかった
「と、まぁ、昨日はこんな感じだ」
「そうかよい」
仲間たちの話に頷いたマルコは、どこか満足そうに見えた
ふと振り返り、海へ歩き出したマルコ。踏み入れた水音がしたところで暗闇に話し始める
「今度は俺が遅くなっちまったよい。俺の言いたかった事もずいぶん皆が言ってくれたようだが....俺はまだ言いてぇ事が山ほど残ってるよい」
何も見えないソコに話し続けるマルコ
「顔を見て話がしてぇから....また、日のあるうちに来てくれよい....おやすみ、ゆぅ」
「ゆぅが....いたのか?」
あまりの自然さに驚いた仲間たちがマルコに尋ねる
「いや、そんな気がしただけで、何も見えねぇし声も聞こえなかったよい」
それでも....と、確信に満ちた笑いを浮かべる
「海に入って言ったんだ、俺の声は聞こえてただろうよい」
そのまま、寝床へ向かうマルコを、ゆぅはずっと見ていた
夜空を流れる青い光
どうしてもその導きに逆らう事ができず、思い悩んだ末そっと様子を見に出ていった
――不死鳥....
振り返ったから、聞こえたのかと思った。声になったかもわからないほどの呟きが
見えているのかと思った。まっすぐ自分へ向けるその視線に
昨日、溶かされてしまった心
今日、抑えきれなかった衝動
明日、会わずにいられる自信は....
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