短編集 F ググッと媚肉を開いて再び入り込んでくる熱い肉棒。 ──いや、だ。やめろ……。 『透夜。ずっと、俺だけのものだ……』 熱を帯びた銀の低くかすれた囁き。 それと共に、ゆっくりと銀の熱く固い欲望が沈み込んでくる。 『──ッ…!』 思わずぎゅっと目を瞑って、晃太は唇を噛んだ。 いやだ……ッ!! 「──た、……晃太ッ!」 「!」 突然肩を掴まれて、晃太はハッと我に帰った。 「え、あれ……冬斗?」 一瞬で現実に引き戻された晃太は、目を瞬かせて、親友を見上げる。 「……ッ」 しかし、冬斗の顔を見て、晃太は心臓がどきりと跳ねた。 晃太を心配そうに見詰める冬斗の瞳に、晃太の怯えた様な顔が映る。 とっさに、身を引いた。 (──銀……ッ!?) 目の前の親友の顔が、たった今、頭の中で晃太を犯していた男と重なる。 晃太は、一瞬ここがどこだかも忘れて、親友から離れようと後ずさった。 「……ぅわっ!?」 しかし、ぐらりと体制を崩して、晃太は椅子から派手な音を立て落ちてしまった。 「いって!」 尻餅をついた晃太は思わず叫び、打った尻をおさえた。 「晃太ッ!?」 呻きながら尻をさする晃太に、目を丸くして冬斗が駆け寄ってくる。 「大丈夫!?……もー、何してんだよ晃太」 若干呆れ気味に、しかしそれでも心配している冬斗は、尻餅をついている晃太の身体を引き寄せ、抱き起こした。 晃太は、困惑と混乱で、されるがままになる。 (やっぱり……似てる……) 雰囲気や口調は全く違うが、目や鼻、体格など銀と酷似していた。 晃太の心の中で、小さく囁く声がする。 ──”アイツだ。銀だ” それは、晃太の声であり、晃太の声でなかった。 夢の中の男が、目の前の親友と同一人物であることを、晃太は直感で悟っていた。 理屈や倫理などを抜いて、晃太は感覚的に、親友が銀の生まれ変わりだとわかる。 「ほら、晃太」 差し出された大きな手をじっと見詰めた。 その手は、間違いなく銀と同じもので。 晃太は、固まったまま目を見開いて冬斗の掌を見詰めていたが、冬斗が不思議そうにしていたので、慌ててその手を握った。 「さ、さんきゅ……」 「本当にどうした? 今日、なんか変じゃない?」 冬斗が、いつもと様子の違う晃太に首を傾げる。 晃太は、内心ひやりとしたものを感じながら、そんなことない、と平静を装って首を振った。 「い、いや、別に。ふつうだって。」 そう言って無理に笑ってみせると、釈然としてなさそうだったが、とりあえず冬斗は頷いた。 (……アイツとは、全然違う) 柔らかい雰囲気、仕草。 着ている服だって、髪型だって、全く違う。 なのに、晃太は、冬斗が銀だと、はっきりとわかる。わかってしまう。 「次、化学基礎だから、早く行かないと」 化学基礎の平井は、今時らしかぬ熱血教師で、少しでも遅刻するとチョークを投げてくる、とんでもない鬼教師だ。 「あ、おう」 晃太は慌てて椅子を元に戻し、教科書とノートを取り出す。 気付けば、教室にいるのは晃太と烱斗だけで、他の生徒はみんな移動したみたいだった。 「やっべ」 「晃太がぼーっとしてるから」 「誰のせいだってんだよ……ッ」 「え、俺?」 「……あ。い、いや、違うッ」 思わず口走ってしまったことに、晃太は内心しまった、と後悔する。 「……なに。晃太、俺のこと考えてぼんやりしてたの?」 心なしか嬉しそうな烱斗を、晃太は「ば、ばか、ちげーよ!」とひっぱたいた。 「痛ッ!……暴力反対」 「と、とにかく! 早く行くぞ!」 お調子者め、と思いながら、晃太は烱斗と共に教室を出る。 (やべー! 完全に遅刻……) 「おい、冬斗。もっと早く走れって!」 「うーん……。もう遅刻なことに変わりはないんだから、走る必要ないんじゃない?」 「だからって……あー、もうッ!とにかく走れって!」 せめて、「急いで走ってきたぜ」オーラを出していれば、平井も少しは許してくれるんではないか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |