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短編集
E



 この男が嫌いだった。
 不遜で、不適で、我が儘で。
 いつも、晃太の意志などお構い無し。
 飽きもせず愛を囁き、その気のない晃太に交じり合いを強要してくる。
 それは、晃太がどんなに拒もうが、泣き叫ぼうが関係ない。
 供物と鬼子を結ぶ、歪で腐りかけた、見えない鎖。
 それは、断ち切ろうとしても切れることはない。


 ──ねぇ。なんで、俺なんだ。



 晃太の、胸の奥の囁き。
 その問いは、銀に届くことはない。
 銀の手によって、意思とは関係なく熱を帯びる躯。
 銀の手が。
 銀の目が。
 銀の声が。
 晃太を狂わせる。
 憎くて、憎くて、たまらない。
 それでも躯は銀に触れられて悦んで。
やがて晃太が気をやるのと同時に、胎の中に銀の不浄の証が注ぎ込まれる。ビクビクと脈打つ熱いくさびに、晃太は言いようのない悦に包まれる。

 心と躯がバラバラで、晃太は壊れてしまいそうだった。

『お前しかいらぬ』

 囁きと共に下りてきた唇。

『お前だけが俺を狂わせる』

 口付けをされながら、敏感な陰茎をゆるゆると扱かれた。
『んっ、ンぅッ…』
 びくびくと跳ねる躯。
『ここが好きなんだろう?』
 含み笑いと共にひっそりと耳元で囁かれて、思わずぞくりとした。
 くり、と先端を弄られる。
『ひ、ぃあッ!』
 ふるふると涙を流しながら悦んでいるそれの先端をいじられて、たまらず身悶えた。
『うぁ、は、あぁ……──!!』
 再び達してしまい、自分のはだけた胸元を汚した。
 焼き切れていく理性。晃太は、もう限界だった。

 ── 一葉(かずは)……。

 今はもう会えない、最愛の人の名前を呼ぶ。
 
『透夜は夜を照らす月のようだ』

 そう言って、最後の瞬間まで抱き締めてくれた男。
 優しく、温もりを教えてくれた。
 しかし、今。自分は、その一葉と自分を引き裂いた男に抱かれ、感じ、よがっている。
 ──壊れてしまいそうだ。

 銀に与えられる快楽に、思考が焼け爛れていく。
 幸せだった、以前の生活の記憶が、鬼によって塗り潰されていく。
 愛してくれた優しい恋人。いつ、どんな時でも力になってくれた友人。支えてくれた家族。
 それらの、柔らかくて暖かい、大切な思い出が遠のいていく。

『こんなに甘露を漏らして…。そんなに俺の指が気持ちいいか』
 呪いのような銀の囁き。
 晃太は、思わずぶるりと震えた。
 畳に正面から手をつけさせられ、尻を銀に向かって突き出すような格好にされる。
 ──まさか。
 四つん這いにされた晃太は、これから何をされるのか悟って、目を見開く。
『お前の蕾はいつみても綺麗な桜色をしていて、愛らしいな。先程俺が出したものがこぼれている』
 うっとりとしたような銀の声。
『綺麗にしてやろう』
 くちゅりと濡れた音を立てて、なにか滑らかなものが入り込んできた。
『あッ!?』
 何か柔らかくて温かいものが後孔にねじ込まれて、晃太はびくんと背中を弓なりに反らせる。
『ぅあ、ア、やだぁ、それッ…!』
 不浄のそこを晒すという屈辱と羞恥。それに加えて、なんとそこを口淫されるというあまりの出来事に、晃太は呆然とした。
 銀は激しく舌を蠢かせる。
『あんッ!!』
 一度犯された後孔はしとどに濡れて、解れていた孔は、銀の舌を呑み込んでいってしまう。
 前に出された精液が、まだかきだされていなく、晃太の媚孔を濡らしていた。
 銀は、晃太のむき出しになった腰を両手で持ち、後孔に音を立てて激しく口付ける
『ひっ!やぁっ……あぁんッ!』
『うまいな。……また可愛がってやろう』
 満足気に呟いた銀は、屈めていた躯を起こし、晃太の腰を掴み直した。
 ────あ、あ。
 散々舐められ、解された後孔にあてがわれた、銀の熱い先端。
 さらさらと背中に垂れる、銀糸の様な銀の髪がくすぐったかった。




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あきゅろす。
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