短編集 D (いやだ、いやだ──!) 『透夜(とうや)……』 囁くように“晃太の名前”を呼ぶ男。 『銀(ギン)……っ』 晃太はその男の名前を呼び、歯を食いしばった。 スルリと腰から太腿まで辿る、冷たくて大きな手。 銀という名の、人間の形をした鬼。 銀が身に付けている着物は、既に肩を露出させるほどまではだけていて、ますます色香を湛えていた。 引きずり込まれそうになる蠱惑的な赤い瞳から、無理やり目を逸らす。 くちくちと、脚の間からイヤな音が聞こえて、たまらずぎゅっと目を瞑った。 『い、や……はっ、あ、ん…っ』 紫の手が晃太の股間を探り、勃ち上がって涙を流し始めている陰茎を、ゆるゆると扱く。 『ん、く……っ』 銀の長い指は巧みに絡みついてきて、晃太は眉を寄せた。 じりじりと這い上がってくる快感から逃れようと、思わず畳に爪を立てる。 『畳じゃなく、俺に爪を立てろ』 すると、クスリと笑った銀が晃太の手を自分の背中にやった。 『………っ』 『お前はまことに愛らしい……』 まるでしがみつくような格好に、晃太は顔をしかめる。 しかし、伝わってくる鼓動には、この鬼にも心があるのかとほんの少しだけ安心して、ほっと息を吐いた。 『ん……っ』 すぐに銀に唇を塞がれる。口内に入り込んでくる舌に、思わず歯を立てた。 『……ッ』 銀の顔が歪む。 『……ほう』 唸るような低い声に、しまった、と思った。 しかし、銀は愉快そうに笑う。 『そう急くでない』 そう言って含み笑いをした銀は、次の瞬間晃太の頭を強引に引き寄せた。 『んー……っ』 吐息ごと奪われる口づけをされる。 激しく舌を吸われ、絡められる。 息つく間もないほどの、情熱的な口づけ。 『は……、お前の唇は、暖かくて柔らかいな』 そう言って欲情に溺れた目を細める銀。 透夜の目から、涙がこぼれ落ちた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |