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短編集
C



 熱い吐息と共に囁いた男は、後ろから晃太の身体を抱き締めた。
 まるで、最愛の人にするような抱擁に、思わずぶるっと震える。
『や、やだ……、やめ、てくれ……』
 背中の肩甲骨に、温かく、ベルベットのような肉厚な舌が触れた。
 ぴちゃりと音を立てて、丹念に晃太の肌を愛撫する。
 さんざん肌をねぶられた後、顎をそっと掴まれ、くいっと後ろを向かせられる。
 男の顔が目の前にあって、思わず息を呑んだ。
 射抜くような赤い瞳に、端正で美しい顔には、ほんのりと笑みが浮かんでいる。
 その髪は思わず触れてみたくなるような、長く伸ばされた銀髪で、晃太の背中をくすぐる。
 男の顔が近付いて来て、口づけをされるのだと気付く。
『や……』
 それだけは嫌だと、晃太は首を振った。
(口づけは、“あの人”との──)
 しかし、口付けを拒む晃太の姿が男の機嫌を損ねたようで、次の瞬間には噛みつくように口づけをされていた。
『……っ』
 晃太は、目を見開く。
(嫌だ、いやだ……っ)
 頭の片隅に、最愛の人の姿が浮かぶ。 
 唯一晃太が愛し、また、愛してくれた人。 
 優しいその人は、決してこんな風に強引に唇を奪ったりはしなかった。

 この唇は、生涯あの人に捧げるつもりだったのに。



 そんな健気な純情を一瞬で奪った目の前の男は、晃太がもがくのも構わず、長く深い口づけを与える。
 晃太の目に、じわりと涙が滲んだ。






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あきゅろす。
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