短編集 B そう、晃太は昨夜、恐らく前世であろう夢を見た。 やけにリアルで長いそれは、今でもはっきりと思い出せる。 机の上で拳を握り締めて、晃太は叫びたくなるのをこらえた。目の前で爽やかに笑う冬斗が、いっそ憎い。 (前世とか……ありえねえだろ。どこのファンタジーだってんだよ…) そう思って、晃太はうなだれた。 (何だろう…なんかもう朝から疲れた…) 机に突っ伏しながら、ぼーっと、目の前の幼なじみを見詰める。 その顔を見詰めながら、晃太は昨夜見た夢の記憶を辿った。 恐らく前世であろう記憶の片鱗。直感で、それが自分の以前の記憶なのだと感じた。 (あれは、確かに俺だったよなぁ…) 姿形がどんなに変わっていようが、知らない部屋にいようが、確かに夢の中の男は自分だったと、確信している。 ──── 時代劇に出てくるような畳の広い和室に、着物をはだけさせて倒れている男。 それが、自分だった。 (いやだ、いやだ、いやだ) 恐怖、憎悪、諦念。 渦巻く感情。 覆い被さってくる男を、いっそ絞め殺してしまいたい衝動をこらえる。 露出した肌をくすぐる、さらさらとした銀糸のような長い髪。 身体を這う長くすらりとした指。 纏わりつく熱い視線。 それら全てが、吐き気を誘った。 気を抜けば吐いてしまいそうで、夢の中の晃太は畳に額を押し付ける。 やけに長く、鮮やかな夢で、晃太はそれを夢だとも思わなかった。 この外部から閉ざされた部屋を。覆い被さっている男を。 晃太はよく知っていた。 《俺は供物》 《この男の、玩具》 『…や……いや、だ……やめろ……』 自分の弱々しく、か細い声が、今でも頭の中で響いている。 『──お前は俺のものだ』 [*前へ][次へ#] [戻る] |