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短編集
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「おはよ、晃太(こうた)」
 心地良いバリトンが、藤城(ふじしろ)晃太の鼓膜に響く。
「ああ、おはよ。冬斗(ふゆと)」
 気怠い朝の登校。
 教室に入ってきた晃太に、一番に声をかけてきたのは、幼なじみでもあり、親友でもある守宮(もりみや)冬斗だった。
 冬斗はその端正な顔をほころばせ、笑顔で晃太に話しかけてくる。
「今日迎えに行ったのに」
 そう言って近付いて来る冬斗は、スラリとしたモデルのような体躯に、柔らかな髪を持つ美形だ。
 一見するとモデルかCGにしか思えない冬斗は、晃太を見ると迷わずに駆け寄ってきた。その無邪気で爽やかな姿に、周りの女子たちが息を呑むのがわかる。罪づくりな男だ。
「あー……わり、寝てた」
「だと思ったよ。あ、あとおばさんから二人にってコレもらったよ。どうせ晃太はギリギリに起きてこういうの持っていく余裕なさそうだからって」
 茶髪のくせっ毛を掻く晃太に、冬斗は苦笑し、自分の机の横にかかった通学カバンからラッピングがかったものを見せてくる。
「おふくろのやつ……。冬斗がくるからってはりきってんだよ。メンクイだからな」 
「いやいや、そんなことないでしょ。いつも晃太と仲良くしてくれてありがとうって。おいしそうだね、このシフォンケーキ」
「最近菓子作りにハマってるみたいだからな。オレには滅多に食わせてくれないくせに」
「ははは。昼の時一緒に食べよ。てか最近晃太さ、寝坊多いよね。夜何してんの?」
「あー……いや、別に」
 いつも通りの冬斗との何気ない会話を応酬していたが、昨夜のことを訊かれ、晃太は思わず声を詰まらせた。
 晃太は冬斗から目をそらし、冬斗の後ろの席に座りながらカバンを横にかける。晃太と冬斗は座席が前後だった。
「え、なに、どしたの? なんか元気なくない?」
 しおらしくなった晃太を見て、冬斗がキョトンと顔を覗き込んで来る。
「そんなことねえよ」
 覗き込んで来る冬斗からフイッと顔を背け、晃太は素っ気なく言った。





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あきゅろす。
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