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月の瞳
08



 「お前はあの時、俺の血を飲んだだろう? 吸血鬼の血は中毒性があるから、一度味を知った者にはたまらない匂いがする筈だ」


 狼男の硬質な銀髪を撫でつけながら、吸血鬼は低い魅惑的な声で言う。


 「…お前も、さっき俺の血に引き付けられたんだろう?」

 「……」


 それは、もしかして先ほどの狼男のことだろうか。
 確かに、あの時は異常なくらい吸血鬼を欲した。それはもう、細胞までもが騒いだと言っていいくらいで。
 しかし、あの強い欲求が、吸血鬼の血を求める中毒症状なのか。
 あんな強い渇望が度々訪れるのだとしたら、自分はどうなってしまうのだろうか。

 ……我慢していられる自信はない。


 「まぁ、お前が飢えた時は、いつでも俺の血を与えてやるが。……しかし、それには条件がある」

 「? なんだ?」

 「──俺の隷属になれ」


 告げられた言葉に、狼男は首を傾げる。

 れいぞく?れいぞくって……なんだ? 

 意味が分からずきょとんとしていると、吸血鬼はそんな狼男を見下ろしながら微笑んだ。


 「俺の餌になれ、ということだ」


 妖しい笑みと共に告げられた言葉に、狼男は思わず身を引いた。
 その餌、という響きに、もしや自分はこれから血を吸い尽くされるのでは、という恐ろしい考えが頭をもたげる。

 一瞬で恐怖を感じた狼男が、吸血鬼から慌てて体を離そうとするが、それを吸血鬼の腕は許さない。


 「安心しろ。餌といっても、無理なことはしない」


 その誤解を諭す声に、狼男は未だに疑いの眼を向ける。

 
 「俺が欲しくなったら、お前の血を少し寄越せばいいだけだ。その代わり、お前が飢えたら俺の血をやる」


 ……なんだか、それでは相互吸血みたいだ。


 そう思いながら、狼男は目の前の妖美な吸血鬼を見詰めた。


 「お前を助けたのは俺だ。だからその命は俺のものだ。血も、肉も、魂も……この、目も」


 傲慢に囁かれ、目元に指を這わせられる。
 そのなぞるような動きに、思わずびくりと震えると、笑いながら手を離された。


 「……この目が珍しいのか?」


 満月を忌み嫌う狼種族。なのに満月を彷彿とさせる瞳を持って産まれてきた自分。





 

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あきゅろす。
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