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月の瞳
04



 狼の鮮やかな銀色の毛はざわざわと引っ込み、滑らかな肌へ。
 体も大きくなり、手足が伸びた。丸まった前足は開き、五本の指になる。

 狼はやがて、人の姿に変わっていた。

 艶のある鮮やかな銀髪に、閉じられた切れ長の目を飾る長い睫毛。
 静かに寝息を立てる姿は、しなやかで美しい。
 背を丸めて猫の様に眠っている、一糸纏わぬ青年。
 その姿を見て、ヴラドは笑みを深めた。


 「……なるほど。ウェアウルフか」


 ウェアウルフ。俗に狼男と呼ばれる生き物。
 満月の夜になると狼化し、夜の町を徘徊しては人間の子供を攫い喰らうと言われている。
 今目の前で眠る青年も、今夜の満月に触発されて狼化したのだろう。
 そしてヴラドの血を飲んだことで体内に眠る魔力が鎮静され、人間の姿に戻ったのか。

 ヴラドは青年の髪をそっと撫でる。
 狼だった時と同様、硬質なそれはサラサラとしていて、まるで銀糸の様だ。
 撫でながら、横たわり静かに寝息を立てる横顔をじっと見詰める。

 整った容姿。長い銀の睫毛に、形の良い通った鼻。きめ細かな肌は若々しく弾力があり、思わず触れたくなる。
 その首から下に続く体は適度に引き締まっていて、雄として申し分ない肉体だった。
 身長も高く、ヴラド程ではないが人間の平均よりは大分高い。
 長い爪や伸び放題の髪は野性的で、ヴラドはそっとその手に触れてみる。
 ぴくりと動いた青年は、反射的に防衛反応を働かせたのか、ヴラドの手を振り払う様に引っ掻いた。


 「……ッ」


 長く鋭い爪が手の甲を裂き、ヴラドは顔をしかめる。
 傷は驚異的な治癒力で瞬く間に消えたものの、流れた血は戻らない。

 
 (これは、これは)


 随分と警戒心が強いものだ、とヴラドは引っ掻かれた甲を見詰めた。


 (調教のしがいがある)


 ふん、と鼻を鳴らしてヴラドは青年の隣に滑り込み、青年を抱き枕にする様に抱き込む。
 青年の頭を胸に押し付け、そこに顎を乗せる。
 自分と同じ泡の匂いがして落ち着いた。
 ヴラドは青年を抱き締め目を閉じながら、微睡む意識の中思う。


 (まだ丑三つ時だというのに、眠いな……)


 この狼男を抱いていると、不思議と安心して眠たくなってくる。
 ヴラドは差し込む月光の下、睡魔に誘われるがまま、いつの間にか瞼を閉じていた。


 (次の夜が来たら)

 
 (この狼に、名前でもくれてやるか)


 
 そして、ヴラドは眠りの中に引き込まれていった。
 







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