月の瞳
09
狼男は、この目が嫌いだった。
この満月を彷彿とさせる瞳のせいで、狼男は今まで一族から忌み嫌われてきたのだ。
狼男を産んだ親でさえ彼の瞳を不気味がり、彼を疎んだ。
友人と呼べる者も出来ず、孤独な幼少時代を送った。
狼男は、何度この目を呪ったことだろう。
いっそくり貫いて仕舞いたかったが、自分でさえこの瞳に触れることは禁じられていたので、それも叶わなかった。
狼男は、この月の瞳のせいで何度も己の生に絶望した。
――それを、この吸血鬼は気に入ったと言うのだろうか。
どうかしているとしか思えない。
「……何故」
不可解に戸惑いながら呟けば、男は至極真面目な顔で答えた。
「欲しいからだ」
「……」
狼男は、予想にしていなかった答に思わず目を丸くした。
すると、その様子を見ていた吸血鬼が「満月みたいだ」と笑う。
狼狽えている狼男の一方、吸血鬼はひどく愛しそうに狼男の目の縁をなぞった。
「美しいじゃないか」
「俺は好きだぞ」と笑われ、狼男は何だか未知の生物に会ったような顔をした。
「……あんた、変なヤツだな」
ぽつりと呟けば、吸血鬼は目を細めてふんと鼻を鳴らした。
「恩人に向かって変なヤツ、とは随分失礼な奴だな」
「……すまん」
「謝らなくていい」
苦笑いされ、狼男は決まり悪く吸血鬼の腕の中で見じろいだ。
……というか、何故自分は抱き枕にされているのだろう。
ふと疑問に思いながらどうしたらよいか分からず固まっていると、不意に吸血鬼が思い出したように言った。
「そうだ。まだ名前を決めていなかったな」
「名前?」
首を傾げると、吸血鬼は頷いた。
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