12 桃矢に負ぶわれて向かった先は、ロビーのようなところだった。 そこには先ほど会った藤隆と、明るい茶色の髪を上の方でちょこんと2つに結わえている女の子がソファーの上に座って居た。 …恐らく、あの子がさっき教えてもらった妹のさくらだろう。 そんなことを考えつつ、俺をソファーに下ろした桃矢に礼を言う。 ソファーに浅く腰掛けると、さくらはそわそわと落ち着きのない様子でちらっと俺を見た。 俺はその機会を逃さないように、さくらに向き直って微笑みかける。 「初めまして、俺は桜井和泉。突然居候なんてことになっちゃって迷惑だろうけど、これからよろしくね」 事前に軽く考えておいた文章をさらっと口にすると麟は半ば呆れながら、 『(猫かぶり…)』 と俺にだけ分かるように呟いた。るっせー!! さくらはと言うと、わたわたと慌てながらたどたどしく話し出した。 「ううん!私、全然気にしてないから!!」 「本当?」 「うん!あ、私は木之本桜。さくらって呼んでね!」 「じゃあ俺のことは和泉でいいよ、さくらちゃん。」 笑顔でそう言ったさくらは、さっきまで落ち着きなくそわそわしていたことが嘘のような堂々とした態度だった。 …良いなぁ、とても新鮮だ。 果たして自分がこの子くらいの年頃の時年相応の態度で振る舞えていただろうか、と思考を巡らした。 「(うん、ないな!昔から可愛くなかった!!)」 「和泉君どうしたの?」 「いやなんでもない、断じて!」 「?」 そんな俺達を生ぬるい目でガン見してくる桃矢。 そんな桃矢になんだよ、視線を送るとなぜかまた頭を撫でられた。 ←→ [戻る] |