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:Dearest:
思い悩む心とは裏腹に





昼休みになると賑わい始める購買部で、翔太は人込みに紛れていた。

狙うは、人気No.1の焼きそばメンチカツサンド。



「残りあと3つ…。このまま並べば確実に買えるっ!!」



小銭を握りしめて、いざ戦場へ――…


と、その時。



「翔太くーん」



自分を呼ぶ可憐な声。

振り向くとそこには、愛しの美人転校生がこちらに手を振っていた。

頬を緩ませた翔太は、自ら喜んで戦場を離脱した。



「ごめんね、せっかく並んでたのに…」

「いいっていいって!どしたの藍那ちゃん?」

「大した事じゃないんだけど…。
葵くんと連絡ついたのかなぁって思って」



そう言って、藍那は人の良さそうな笑顔を浮かべる。


「あぁ!やぁっとさっき電話繋がったよ。
あいつ今日は『風邪』で休むってさ」

「…風邪?」

「ま、あいつの『風邪』はいつもの事だけどな」



翔太が子供のように笑う傍で、藍那は顔を俯かせた。

翔太は首を傾げる。



「えーっと…葵に何か用だった?」

「あ、ううん。数学で分からない問があったから、教えてもらおうと思っただけ!そっか…具合悪いんだ」



藍那の困ったような笑みに、翔太は慌てて口を開いた。



「あ、でも別に具合が悪い訳じゃ…」

『これにて、本日のパン終了しましたーっ!!』



聞こえてきた購買部のおばちゃんの声に、翔太は慌てて振り向いた。

購買部のカウンターには、『本日完売』の札が掛けられている。



「そんなぁぁぁああ!!!!!
俺まだ昼メシ買ってなぁぁああい!!」

「こら!!うるさいぞ高尾!!」



廊下で一人涙ぐむ翔太は、通りかかった秋山は叱咤される。

けれどその場に、既に藍那の姿は無かった――…









『気になるの?藍那』

「…別に」


生徒は立ち入り禁止とされている屋上。

藍那は一人手すりに寄りかかり、空を仰いだ。

彼女の長い黒髪は、優しい風に靡いている。


誰もいない筈のその場所で、藍那は見えない相手と言葉を交わしていた。

彼女にしか見えないその存在は、魔女ノヴァ。



『真実を話した翌日に風邪で休み、ね…。
王子様、相当調子が悪いらしいわよ』

「…何の話?」



先ほど翔太と接した時とは違い、藍那は厳しい表情でノヴァを見上げた。

彼女は宙に浮いたまま、長いウェーブの黒髪と濃紺の尾鰭を遊ばせている。

そして、クスリと妖艶な笑みを零した。



『藍那、私は魔女よ?
彼の行方くらい手に取るように分かるわ』

「え…家にいるんじゃないの?」

『外へ出掛けたみたい。
行き先は――…

“都立総合病院”よ』










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