[携帯モード] [URL送信]

:Dearest:
醒めない夢








「――…って何だそれ!!?」






――チュン チチ…


可愛らしい小鳥の囀りが、聞こえる。

周りの景色は、他でもない俺ん家だ。

朝日が眩しいくらいに輝いていて、俺はしばし呆然としていた。


心なしか、肩がいてぇ。


あぁ…そうか。

夕べは疲れて、制服のままソファーで寝たんだ。




じゃあ、さっきの神永は?

あの魔女は?

人魚や王子がどうとかは?






「なんだ…やっぱり夢か」



想像力ありすぎだろ…。

俺の思考回路どーなってんだか。




「…つーか腹へった。今何時だ…?」



ボーッとした頭を起こそうと、俺は壁に掛けられた時計に視線を向けた。


短針は、ちょうど10を指している。





「――普通に遅刻じゃねぇかよ…」




夢見の悪さと寝過ごしたショックもあって、俺は脱力し、再びソファーのクッションに顔を埋めた。




――ブーッブーッ


その時、テーブルの上に置かれた携帯のバイブが鳴り出した。

やる気なさそうに手を伸ばして、うるさいそれを引ったくる。

ディスプレイには『翔太』の文字。





「…もしもし」

『あ、葵?今日どーしたんだよ?
さっきから電話してたのにケータイ出ねぇし…』

「わりぃ…今起きた。俺、今日ガッコ休むわ。
病院行かなきゃいけねぇし、秋山には風邪って言っといて」

『おう、分かった。寝坊なんて珍しいなー。
藍那ちゃんに笑われるぞ』





………は?

なんで神永が出てくんの?







『今日お前来てないから、桐崎くんどうしたの?って質問責め!
まぁ、お前のお陰でいっぱい話せたんだけどな♪』




…何だそれ。


でもさっきのあれは夢なんだし…。










偶然、だよな?













翔太との電話を切った後、暫くボーッと考え込んでみた。

でも分かんねぇもんは分かんねぇし。

取り敢えず今は――…





「腹減った…」



皺だらけの制服を干して軽くシャワーを浴びた。

着替え終わると台所に立ち、冷蔵庫から数少ない材料を取り出す。

そろそろ買い物行かなきゃな…。




こう見えて、家事は割と得意な方だ。

両親が死んだ後、否応なしに一人暮らしをせざるを得なかった俺は、掃除洗濯炊事を必死に覚えた。




軽い昼食を作り平らげ、食器を洗い終えると、財布とケータイを持って身支度を整えた。


まだ春と言っても肌寒い季節。

黒いジャケット羽織って家を出た。







[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!