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:Dearest:
舞い込んだ泡






「おーい、席に着け。HRを始めるぞ!」



生徒達の賑わう声で騒がしい教室内に、秋山の声が響き渡る。

周りの生徒達は直ぐに自分の席へ散っていった。
翔太も渋々、自分の席へ戻る。

教壇に立った秋山は出席簿を置くと、自慢のよく通る声で話し出した。



「今年3ー2の担任を務める事になった、秋山透だ。
これから進路や何かで色々と悩む事が多くなると思うが、気兼ねなく何でも相談してくれ」



…俺はどうも、秋山のこのお節介な性格が気に入らない。

『俺に付いて来い』みたいな、熱血教師ってやつ?

今時そんなの流行んねぇし、うざってぇ。


すると秋山は嬉しそうに話を続けた。



「それとな、皆にもう一人、紹介したい生徒がいる」



その一言で、教室内がざわついた。

嘘だろ…。
まさか高三のこの時期に転校生か?

クラスの生徒の誰もがそう思っただろう。

だけど秋山は気にせずに、教室の外にいる生徒に、中に入るように促す。


真っ先に目に入ったのは、長い黒髪。



「――――……」



絶句、した。

その生徒が、さっき校庭で見た女だったから。

だけど今は、あの時とは雰囲気が違う。


瞳の色が茶色だ。

さっき見たあいつの瞳の色は、外人みたいな蒼色だったのに…。

そんな事を考えている間に、秋山はチョークで黒板に名前を書いていた。

大半の男子生徒が、美人の転校生に見とれている。

…確かに綺麗な女だけど。



「神永藍那(かみながあいな)さんだ。
皆とは一年しか一緒に過ごせないが、仲良くしてやってくれ」



秋山はそう言うと、転校生に挨拶を促す。

女はゆっくりと、口を開いた。



「初めまして、神永です。
卒業までの短い間ですが、仲良くして下さい。
どうぞよろしくお願いします!」



そう言って、にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべた。






HR終了後の休み時間。

転校生の周りには沢山の生徒が集まった。



「ねぇねぇ!神永さんって転校する前はどこの学校に行ってたの?」

「今のお家は?どこに住んでるの?」

「この時期に転校なんて、珍しいね!
親の仕事の関係とか?」



在り来りな質問が教室中に響き渡る。

だが人だかりの中心人物は、楽しそうに笑顔で答えていた。

そんな光景を見ながら、翔太は机に頬杖をついて呟く。



「かっわいーなぁ…あのコ」

「あの転校生、さっき校庭にいたぜ」

「マジかよ!?早く教えろよな〜!!」



落胆する翔太に、俺は溜息混じりに言った。



「転校早々、始業式サボるような女だぞ?」

「ミステ〜リアスでいいじゃんか!」

「…変な発音やめろ。キモイから」



翔太はいつも一目惚れでガンガン押すタイプ。

だけど女運は微塵もない。
やっと付き合えた女に二股かけられたり、散々貢がされたり…。

それでも恋を求める、可哀相な男だ。



そんな他愛もない話をしていた、その時だった。



「ねぇ、桐崎葵くんって…どっち?」



突然掛けられた言葉に振り向くと、そこには注目の転校生。

話題の人物が来たもんだから、翔太は慌てて転校生に向き直った。



「こ、こんちわ!葵に何か用?」



…見事に声、裏返ってる。



「桐崎は俺だけど」



返事をした俺は、転校生に見つめられる。

――その瞬間、転校生の表情から笑顔が消えた。



「キミが、桐崎葵くん」



近くで見るそいつの瞳は、紛れも無く茶色。

…やっぱり、見間違いだったのか。



「あ、突然ごめんなさい!
掲示板に貼られてた学力テストの結果見て、1位の桐崎くんってどんな人かなって。
そしたら、同じクラスだって聞いたから」



転校生――神永は再び笑顔に戻った。

…一瞬だけ怖えー顔したけど、気のせいか。



「葵は馬鹿みたいに頭いいからな!
分かんない問題とかあったら何でも聞いていいよ〜」

「…お前が言うセリフじゃねぇだろ」



俺は呆れて翔太に突っ込む。

そんな俺達を見て、神永は楽しそうに笑った。



「ふふっ、仲良いのね!葵くんと…えっと」

「あ…俺、高尾翔太」

「翔太くんね、私は藍那でいいよ。これからよろしくね!」



明るく自己紹介を終えると、神永は自分の席へ戻っていった。

すると再び、神永の周りに人が群がる。



「…っしゃ!名前覚えられたぜ!!」

「あっそう、良かったな」



小さくガッツポーズをする翔太に、俺は素っ気なく返事をした。

すると翔太は気を良くしたのか、俺に満面の笑みを向ける。


…気持ち悪い、笑顔だ。



「…何だよ、その顔」

「俺ぇ〜神永狙うから、応援してくれよな?葵♪」



まーた始まった…。

翔太の可哀相な恋が。



「ああ、頑張れよ」

「うっわ、何だその棒読み」

「…俺には翔太の未来が見えるから」



すると翔太は、いつになく張り切った様子で話す。



「そりゃ、今まではあんまり良い付き合いとは言えなかったけどさ…。
俺の不幸だってそんなには続かないだろ〜!」

「そうだといいな」

「…また、棒読み」



俺はその時、まだ気付かなかった。


俺達から遠ざかった神永が、未だに視線をこちらに向けていたことを――









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