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:Dearest:
海へ
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かくして、期末考査は無事終了した。

その後日、掲示板に貼られた考査結果を見上げながら生徒達は驚嘆する事となる。

いつも通り俺、桐崎葵が学年総合トップなんだけど。

なんとその次位に『神永藍那』の名前があったから。


「すっげぇな…。藍那ちゃん頭良かったんだ」

「…そういや勉強熱心だったもんな」


休み時間になると、しょっちゅう俺の所に来て質問してたしな。

ちなみに翔太はいつも下から数えた方が早い。

だけど今回は試験後に控えているイベントの為に猛勉強をしたらしくて、順位が上がったって喜んでたな。





――そして、終了式から一週間後。






「う・み・だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「うるせーな。お前も荷物運べよ」


気温30度を越える真夏日に、翔太の歓声が響き渡る。

そんなあいつの声を煩く思いながら、俺は車から荷物を取り出していた。



俺達は期末テスト前に約束した通り、翔太の叔父さんが経営する海の家に遊びに来ていた。

俺達の住む地域からこの海までは、車で約一時間半。

ここまで運転してくれたのは、翔太の兄貴である直輝(なおき)さんだ。



「う〜〜〜み〜〜〜〜だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「…駄目だ。聞こえてねぇ」

「あはは、こいつ夏大好き人間だからねー。
ほっといていいよ葵くん。
翔太の荷物、俺が運んどくからさ」



そう笑いながら直輝さんは車の鍵を閉めた。

彼は都内でも有名な私立大学に通う三年生。
大人で優しくて、すげぇいい人。

いつもながら、翔太と血が繋がってるとは思えないな…。



「じゃあ翔太はあたしの荷物持ちね」

「うわっ!!?」



海に歓喜していた翔太に向かって、やたらでかいトランクが投げ付けられた。

さすがに翔太も瞑想(?)を中止する。


颯爽と現れたのは、ショートカットの茶髪の女。

うちのクラス委員長、芹澤菜摘(せりざわなつみ)だった。



「…菜摘。お前の荷物すげぇ重いんだけど、何入ってんだよ?」

「女の子の荷物の中身知りたがるなんて、超趣味わるっ」



翔太と芹澤は中学から一緒の、いわゆる“クサイ仲”ってやつ。

優等生の芹澤に、問題児の翔太。

傍から見れば、姉弟みたいだな。


で、どうして今回芹澤がいるのかって言うと――…



「ね、藍那。男ならこのくらいの荷物持ってほしいわよねぇ?」

「…へっ?あ、うん」



芹澤と神永は、クラスでも仲がいい。

今回の旅行に誘う時に、翔太が神永の友達も連れて来ていいって言ってたからな…。

で、案の定この組合せになる。



「…綺麗」


神永がそう呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

彼女は長い黒髪を潮風に遊ばせながら、太陽に光る海を見つめている。




やばい。

その瞳が段々と、蒼く変化し始めていた。



『藍那の瞳が海色に変わるのは、ユリアだった頃を思い出しているからよ』


前にノヴァが俺にそう囁いたのを思い出した。

こんな光景、翔太にでも見られたら即パニくるだろう。



「ほら、荷物貸せ」

「えっ…あ、葵くん?」


俺は無理矢理、神永のトランクを奪い取った。

動揺する彼女に構わず、自分の荷物も持ってさっさと立ち去る。



「い…いいわよっ、自分で持つから」

「男ならこのくらいの荷物持ってほしいんだろ?」

「え、何それ?」


さっきの芹澤の話、全く聞いてなかったみたいだ。

困惑しながら後ろを大人しく着いて来る神永に、少し笑みを漏らした。





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「遠い所よく来たなぁ!!
直輝に翔太、葵くんも久しぶりだなぁ!!」


海の家に着くと、翔太の叔父さんは笑顔で迎えてくれた。

去年会った俺のこと、覚えていてくれたみたいだ。



「お久しぶりですっ、叔父さん!」

「お、今年は菜摘ちゃんも来てくれたのか!
相変わらず翔太とは宜しくやってんのか?」

「はい、相変わらず面倒見てますよ〜」

「…何だよ、それ」


馬鹿にされた翔太は、口をへの字に曲げる。

さすが“クサイ仲”




本来、叔父さんは海沿いの民宿を経営している。

だけど観光客で賑わうこの季節は、海の家も出店しているんだ。


今回俺達が世話になるのは、その民宿。

さっそく翔太は荷物を部屋に置き、水着に着替えた。



「お前、張り切りすぎ。小学生か」

「楽しみにしてたんだからいいだろ〜?
夜になったらバーベキューと花火やろうな!!」



…翔太は満面の笑顔で、遊び道具一式を見せてきた。

呑気だな…。



「なぁ葵、俺さ…」

「まだなんか用意してあんのか?」

「俺、この夏は勝負しようと思うんだ」

「………勝負?」



意味分かんねぇんだけど。

分からないけど、いい予感がしないのは確かだ。



「この旅行中に、藍那ちゃんに告ろうと思ってる」

「……マジ?」

「大マジだよ!けどまさか菜摘が来るとは思わなかったからさ〜…。
あいつ、絶対邪魔してくる!!」



翔太はスポーツマンだからか、思い立った後の行動が早すぎる。

俺、そのペースに付いていく自信がねぇよ。



「いや、でも障害があった方が燃えるよな。
スポーツも恋も同じだ!!」

「そのまま燃え尽きないようにな」

「おいっ!!」



夏は、人を解放的にする。


俺は部屋の窓から海を眺めながら、これから起こる騒動の予感に溜息をついた。








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