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‡CRYSTAL‡
決別の時




レイヤの言葉の意味を、ティナは直ぐに理解出来なかった。

呆然とする彼女とは対照的に、彼はこちらを見てスッと瞳を細める。


魅惑的な色をした、トパーズの双眸。

セーマと同じ、瞳の色。

途端に彼の安否が一層心配となり、ティナは無性にセーマに逢いたいと願った。


「俺には俺の成すべき事がある。他の荷を背負う余裕は無い」

「…っ」

「お前はこんな場所で何をしているのだ。
始祖ヴァリアスと闘う覚悟は出来ているのだろう」


彼の言葉に、ティナはハッとした。

そして次の瞬間には、心に絡まっていた鎖が解き放たれたような気さえした。




この世界を守る。

その為に、始祖に立ち向かう。

この命尽きようとも、大切な人達を守り抜きたい。


ティナは、もうずっと前から誓いを立てていたのだ。



「…ダイス…」


やがて消え入りそうな彼女の声に呼ばれ、ダイスは顔を上げた。


「私…行くわ」

「だけどティナ…っ」

「ごめんなさい」


彼女の決意は揺るがない。

今のティナは、先程までとは比べものにならないくらい強い眼をしていた。


「私がシエルを止めたい。
他の誰かに託しちゃいけないことなの。
私が…私自身が決着をつけなくちゃいけない」


だから、ごめんなさい。

ティナはそう言うと、城の奥へと駆け出した。


「駄目だ…っ、ティナ!!!」


背後では、自分の名を呼ぶダイスの叫び声が聞こえる。

振り返らない。
振り返ってはいけない。

今、立ち止まってしまったら、もう二度とシエルと逢えないような気がした。



「悔やむのは後で幾らでも出来る。
今は前だけを向いていれば良い」


隣を見れば、同じように廊下を走るレイヤがいた。


「…国民のことを第一に思えない私は、女王失格ね」


ふ、とティナは自嘲気味に笑う。

もし生きて地上に帰れたとしても、恐らく民は身勝手な私を怨むのだろう。


「…そう思うのなら、初めから女王などにならねば良かったのだ」


彼の皮肉は、やはり何処と無くセーマに似ている。

始祖…いや、レイヤ・フォルクス。

一体この男は、何の為にこの世に蘇ったのだろうか。



――西塔の螺旋階段を駆け上がると、長い廊下に出た。

此処は本来、ヴァリアスの民には立ち入りを許されていない区域だ。

廊下の先には、一つのバルコニーがある。
其処から見える景色は、天上人にとって最も死に近い場所とされているからだ。


――聖地カヴァレリア・ルスティカーナ。

荒廃した砂漠のような大地には、天地戦争で死んだ者達の何万もの亡骸が埋まっている。

其処は、彼らの安息の地であり、死に行く者が集う場所だ。



そのバルコニーを前にして、ティナは立ち止まった。

隣にいた始祖も同じく、その場の光景を見て足を止めたのだ。


「え…?」


白亜の廊下が、真新しい深紅色に染まる。

その中心で倒れているのは、一人の青年だった。



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