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‡CRYSTAL‡
白亜降臨




「俺はあの頃から、てめぇが目障りで仕方なかった」

「だからって…ちゃんと理由を話せば俺だって」

「誰にも言わなかった…言えなかったんだよ!
優秀な姉上の弟が俺みてぇな下級兵だなんて…っ!
だから俺は強くなろうと決めたんだ!!
強くなって、認められて、隊長くらいの地位になってから堂々と姉上に逢いに行こうと決めてた!!」


決めて、いたんだ…。

やがて弱々しく呟いたラダムは、静かに顔を俯かせた。


ロゼは、信じられなかった。

彼女に弟がいるなど初耳で、本人からもそんな話は聞いた事がない。


けれど、思い詰めたラダムの表情を見ていると、嘘ではないような気がするのだ。


そして、ロゼは知っていたのだ。

かつては笑顔を絶やさなかったニーナも、時折寂しそうに顔を伏せていた事を。


「ラダム…」


ロゼは、ゆっくりと一歩ずつ距離を縮める。

するとラダムは剣の切っ先を素早くロゼに向けた。



「来るなッ!!!!」


広い廊下に怒声が響き渡ると、ロゼもぴたりと足を止めた。

鋭い視線で威嚇するラダムに対し、ロゼは何処か悲しげな表情を浮かべていた。

やがてロゼの蒼い髪がさらりと流れ、静かに頭が下げられる。


「ニーナのことは…確かに全部、俺の責任だ。
すまない…ラダム」

「っ、」

「俺を目障りだと思うのは当然だ。
…けど、今は大事な作戦の最中なんだ。
俺達の行動が少しでも遅れれば、それだけ天上人の誘導も遅れるし、部下達の士気も下がる」


この作戦が開始してから、もう大分時間も経った。

兵士達にも疲労の色が見え始め、慣れない外界の者と接する天上人にも戸惑いが見られる。

事は、一刻を争うのだ。



「今は作戦に集中してくれないか。
全てが終わったら、俺を殴るなり蹴るなりしてくれて構わない。
…望むなら、お前に殺されたって」

「黙れよ…」


ロゼの声を遮ったラダムは、全身を震わせていた。



「姉上の死が、自分の所為だって分かってんだろうが」

「ラ、ダム」

「なら、後回しにする事もねぇ」


ラダムの背に、何かが浮かび上がる。

黒く淀んだ影。

物凄い怨みと憎悪を孕んだそれは、まるで彼を囲うように大きくなっていく。


ロゼは、それを知っている。





「その通りだよ。
終わった後だなんて、面倒じゃないか」



突然聞こえたその声は、氷のように冷徹だった。



「今ここで、君が潔く死ねばいいだろう」


ラダムの背後に、影と共に現れた白亜の人。

口元に笑みを浮かべながら、音もなく笑う青年。




「お前は…シエル…ッ!」



――…始祖ヴァリアスの姿だった。




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あきゅろす。
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