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‡CRYSTAL‡
隠された真実






「…かえせ」



背後から聞こえたのは、地を這うような低い声。

こんな彼の声は聞いた事がない。
ロゼは思わず足を止めてしまった。

未だこちらに背を向ける相手に向けて、ラダムは更に言葉を紡ぐ。



「何で…首都に戻ってきたんだよ。
このまま行方くらまして、さっさとくたばれば良かったのに…」


いつもと様子が違う。

それに気付いたロゼは、ゆっくりと振り返った。



「ラダム…?」


俯きながら佇むその姿から、激しい怒り、苛立ち、憎悪の念が感じられる。

ロゼは、ただ一身にその覇気を受けていた。



「なぁロイゼスさんよぉ…何で平気なツラして生きてやがるんだ。
首都で最初に起きたオルガの暴動を忘れたか?
てめぇが拾ってきたガキの所為で、みんな死んじまったんだぞ…っ」


一歩、また一歩。

ラダムはロゼに歩み寄る。


「てめぇさえいなければ…あの人は死なずに済んだんだ」

「あの人…?」

「忘れたのか…“ロゼ”」


次の瞬間、



「忘れたとは言わせねぇよ!!

ニルヴァーナは……っ、

“姉上”はお前の所為で死んだんだからな!!!!」


ラダムは腰の鞘から剣を抜き、ロゼに切り掛かった。

咄嗟に大剣を取ったロゼは、その一撃を寸前で防ぐ。


――…速い。

ラダムはやはり、口先だけで隊長になった訳ではないのだ。

この剣術と力量があればこそ、彼は若くしてこの地位に上り詰めたのだ。


いや、違う。
気にすべきは、そこじゃない。



今、ラダムは何と言った?



「…ウソ…だろ…?」



ニルヴァーナ…。

ニーナが…ラダムの姉?



「てめぇが姉上に近付かなけりゃ…あんな風に死んだりしなかった!!」

「ラダム…っ」

「てめぇが居なければ、俺は姉上に逢えたんだッ!!!!」



――…今まで、分からなかった。


ロゼが隊長だった頃、ラダム・ミハルトは5番隊に入隊したばかりだった。

思えば、その時からラダムは自分に猛執していたような気がする。

ロゼ自身、彼の機嫌を損ねたような覚えはない。

年若い青年特有の性格なのだと、深く考えもしなかった。



「…幼い頃に両親を亡くした俺達は、別々の家の養子として引き取られる時に離ればなれになった。
軍人家系だったミハルト家にいた俺は、否応なしに首都保安局へ入隊した」


剣を離し、ロゼと距離を取りながら、ラダムはぽつりと話しだした。


「入隊式で姉上を見た時、すぐに気付いた。
…昔と何も変わらねぇ。
ちょっと抜けてるけど…優しくて真っ直ぐな眼をしてた。
すげぇ偶然だなって喜んで…すぐに逢いに行った」


だけど、とラダムは奥歯を噛み締める。




「姉上の隣には既にてめぇが居たんだ、ロイゼス」


その低い声にハッ、とロゼは顔を上げた。

確かあの当時、ニーナは人気者だった。
故に仮病を偽ってでも彼女に会いに来る部下を、ロゼは追い返す事もしていた。

まさか、ラダムもその中にいたのか。




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あきゅろす。
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