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‡CRYSTAL‡
相応しい相手
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「ふぅ…」


部屋を出たダイスは、安堵の溜息をついた。

人目も憚らず目を逸らしたくなるくらい熱々なセーマとティナに、ダイスはやれやれと呆れていたのだ。


――…全く、これだから今の若者は。

心の中でそう毒づくと、段々自分が惨めに思えてならない。



「…其処で何をしている?」


その時、聞き覚えのある凛とした声に、ダイスはびくりと全身を震わせた。


「あ、アリアさん」

「丁度良かった、ダイアス隊長。
主を見なかったか?」

「さ、さぁ〜?こっちには来てないみたいだけど」


まずい、非常にまずい。

今この部屋に二人きりでいることを知られたら、また大事になってしまう。

何せこの女将軍は、これでもかというくらいティナを敬い、大切にしているからだ。

だからこそ、二人の婚姻にも賛同の意を見せていない。


「まさか、セーマと一緒に…」

「あーーそういえば今回の作戦について聞きたい事があるんです!
さあっ!会議室に行きましょう!!」


ダイスは無理矢理話を逸らすと、アリアの背を押して廊下を歩き出した。

彼女は渋々といった表情で、どうにも納得していないようだった。


部屋から大分離れた所で、ダイスは思い切って口を開いてみた。


「あの…アリアさんは、やっぱりあの二人の結婚に反対なんですか?」


その問に、アリアの整った眉間に皺が寄る。


「…賛成は出来ない」

「やっぱり、立場の問題があるからですか?」


ティナは、ヴァリアスの女王。

一国の主である彼女の夫となるには、それ相応の身分でなければならない。


「でもセーマくんだって一応、地上の王族ですよ」

「あの狐が国王になるとでも言うのか」

「…いや、それはないな」


セーマが、次期皇帝。
…有り得ない。

ダイスは想像してつい笑ってしまった。


「でもあの二人がどれだけ惹かれ合ってるか、もう分かるでしょう」

「……」

「少なくとも僕は、ティナの相手はセーマくん以外にいないと思いますけど」


ふとアリアが足を止めた為、ダイスは振り返った。

廊下に設置された大きな窓ガラスは、まるで絵画のように鮮やかな青空を縁取っている。

アリアはそっと、その絵に触れた。

ガラスに映る彼女の表情は、少し切なそうだった。


「私は…違う」

「え?」

「主に相応しいのは、弟だと思っていた」


“こう”なってしまう前は、常にティナの隣にはシエルがいた。

きっと将来、二人が結婚し、子供が産まれ、ヴァリアスは大きく発展していく。

自分はそれを、生涯見守っていくのだと信じていた。

だがアリアの思い描いていた理想の未来は、実現される事はなかった。




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