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‡CRYSTAL‡
君と見た夢W






銀髪の少女は、直ぐに彼女に懐いた。

昼間は医務室にいて、片時も彼女の傍を離れない。

夜は彼女の部屋で、寝食を共にしているようだ。



俺とダイアスは彼女に頼まれた通り、手が空いている時は極力医務室にいた。

初めは脅えていた少女も、次第に俺達に心を許すようになった。



『…てぃ…な、てぃーな…』


初めて少女がたどたどしく喋った言葉。

それは、どうやら自分の名前らしい。


銀髪の少女は、自らを“ティナ”と名乗った。



『にぃー…な、…にーな』


ニルヴァーナを、ニーナ。


『だぃ…す…、だいす』


ダイアスを、ダイス。


『ろぉ…ぜ…、ろ…ぜ』


俺を、ロゼ、と。

少女は、小さな声で呼んでくれた。


『にーな、ろぜ、だいす』


いつしか俺達は、少女がくれた愛称で互いを呼び合うようになった。




少女が首都に来てから、早4ヶ月。

少女との会話はまだ覚束ないが、時折見せる笑顔が何よりの回復の兆しだった。






『遅くなってごめんなさい。ティナの事ありがとう』

『お帰り。今、寝たとこ』


ある夜の事だ。

仕事で帰宅が遅くなる彼女の代わりに、俺は彼女の部屋を訪れて少女の世話をしていた。

子供の相手なんか今までした事がなかった俺だけど、不思議と面倒だとは思わない。

寧ろ、俺を見て嬉しそうに懐いてくる少女が、可愛くて仕方なかった。



『急いで帰る必要なかったみたいね。
貴方がいればこの子も安心出来るだろうし』


既にベッドで眠っている少女を見ながら、彼女は話した。


『そんな事ねぇだろ。
ティナはお前のこと、本当の母親みたいに思ってる』

『あら。私には貴方のこと本当のお父さんみたい思ってるように見えるわ』


そんな事を言われて、自分が動揺している事に気付いた。


『そんな事、言うな』

『…どうして?』


俺が戸惑う度に、彼女はいつも笑う。

少女と接するようになってからは、特に楽しそうだ。

そんな光景を見ている時が、俺は好きだった。


彼女がいて、少女がいて。

秘密の愛称を共有できた事が、嬉しくて堪らない。




――けれど。

俺は気付いていた。

多分、彼女に初めて会った時から。



『ニーナ』

『…ロゼ?』


時折気になるのは、優しい瞳の奥にある、悲哀の色。

その切なさの理由は、俺には分からない。


だけど、知りたかった。

彼女のことなら、何でも、全部。

過去も現在も未来も。
全て見つめていたかった。



『俺は、お前が好きだ』


俺の突然の告白にも、彼女は動じたりしない。

暫くぼうっと瞬きした後、目を細めて微笑った。



『嬉しい』


バカヤロウ。
それはこっちの台詞だ。


『冗談なんかじゃねぇ』

『うん』

『お前に惚れてるんだ』

『うん』



君は、風だ。

一瞬だけれど強く、時に優しく吹き抜けていく。


『私もきっと、好き』


彼女は俺の目の前に歩み寄ると、そっと手を握ってきた。


『きっと、…って何だよ』

『恋とか…したことないから、よく分からないの。
でもロゼに対する気持ちは、他の人とは違うような気がする』


俺も、彼女の手を握り返した。


『きっと、ティナに対する好きとも違う。
ロゼは特別だわ、きっと』

『…その“きっと”って止めろよ』


君は風だ。

常に俺を取り囲む、風。




『じゃあ“絶対”好き』




ニーナ。

俺を置いていくな。

俺から離れないでくれ。



どうか、

吹き止まないで。




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あきゅろす。
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