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‡CRYSTAL‡
心に誓約を刻んで




君が笑う世界は、こんなにも美しい。

光と温もりに満ちた此処を、この手で守りたいんだ。


――…だから、どうか生きて。



「…ティナ」


隣で眠る君は、安らかな寝息を立てている。

呼吸をし、胸を静かに上下させ、暖かな温もりも感じられた。

この心臓は、今も確かに脈を打っている。


“生きている”
そんな当たり前がいとおしく、彼女の華奢な身体に縋るようにしがみ付いた。


――…怖くないって言ったら、嘘になる。

目に見えない未来を信じる保証なんて、何もない。

…だけど、何もしない方がずっと苦しい。

この温もりが消えてしまうなんて、考えられない。

それが、怖くて堪らない。


「…消えるな」


微かに震えた呟きは、穏やかに眠る彼女の耳に届くのだろうか。

届かなくて、いい。

どうか、今だけは安らかな夢を見ていてくれないか。


――…君が好きだ。

君の歌声が好きだ。
君の優しさが好きだ。
君の温もりが好きだ。

君の笑顔が
何より好きなんだ。

結婚という詞に、彼女の命が約束される力があるなんて思っていない。

これは、自分への戒め。

彼女を守るという言葉を貫く為の、象徴。


復讐の生き方しか知らなかった俺が、初めて手に入れた感情だ。


――…この広い空の下。

この広大な地上で、
君に出会えたことを。


“奇跡”だと、誇りたい。








――…漸く、眠りに落ちたようだ。

そっと瞳を開けて顔を上げれば、其処には彼の安らかな寝顔。

その頬には、うっすらと雫の跡が残っていた。


「…セーマ…」


眠ったふりをする私に縋り付いて、彼は静かに泣いていた。

彼は不器用だから、強がる事しか知らない。

本当は、ずっと弱音を吐きたかったに違いないのに。


――怖いのだと思う。

もし、逆の立場だったら。
セーマの命が、あと僅かなものだとしたら。

きっと私は、受け入れる事が出来ないだろう。

彼に生きることを諦めてほしくないだろう。


そう考えただけで怖くなり、反射的に彼の頭を包む腕に力が入ってしまった。


死を宣告された女に結婚を申し込むなど、正気の沙汰とは思えない。

いや、実際に私たちは狂っているのだろうか。

運命に逆らって生きる事は、馬鹿げているのだろうか。


「――…ありがとう」


彼の穏やかな表情を見つめながら、思った。

この人を、哀しませたくない。


「…一緒に、生きよう」


貴方と共に歩む未来を。

…私は諦めない。














































































































































































































































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