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‡CRYSTAL‡
救済の詞




何度も夢を見た。


ニーナが政府の奴らに殺される瞬間を。

俺がティナを河へ突き落とす瞬間を。


それは、どんなに走っても間に合わなくて。

手を伸ばしても、二人に届かなくて…。



過去は変えられないんだって、思い知らされた。


二人を喪った事実も、
俺が犯した罪も、

消える事はない。



――だけど俺は、ティナにもう一度出会えた。


これが俺に与えられた、最後の道なんだ。


ティナを守りたい。

ニーナの分まで、幸せにしてやりたい。


俺の生涯を懸けて、支えてやりたかったんだ。



――…ティナ。

君は俺とニーナの娘だ。

君の幸せが、俺達二人の幸せなんだよ。



いつか、近い将来。

君を欲しいと言ってくる、どっかの馬鹿野郎がいたら…。

その馬鹿野郎がどんなに良い男だったとしても、一度は反対して、ぶん殴ってやりたい。

君を安心して託せる男に、言ってやりたいんだ。

“死んでもティナを大事にしろよ”

そんな、ささやかな夢を抱いていたかった。




「ロゼ」


彼女が、そっと名を呼ぶ。


「ごめんね…ロゼ」


謝るのは俺の方だ。

愚かで何も出来ない俺に、何故君が負い目を感じる?


「でも私…、嬉しいよ」


ゆっくりと身体を離して、ティナの顔を見た。

彼女は、いつものように優しい笑みを浮かべている。

その微笑みが、何処かニーナにそっくりで――…。



「ロゼは、今もニーナが好きなんだね」

「…っ」



一筋の涙が、ロゼの頬を伝った。

はぐらかすな、と。
そう言い返したいのに、言葉が出て来ない。

代わりに出てくるのは、情けない嗚咽。

顔中がビリビリと痺れてきて、感覚が無くなってしまった。

そんなロゼの頬を、ティナの冷たい指が撫でた。




――…胸の奥が痛くて、苦しい。

確かニーナが死んだ時も、こんな風に涙が止まらなかった。


ティナは、ずっと俺を抱き締めてくれた。

狂ったように泣き叫ぶ俺を、優しく諭してくれた。


…情けない。

よりによってニーナの墓の前で、こんな風になるなんて。


そのうちに、何故かティナがニーナに見えてしまった。

俺の頭を撫でる感覚が、生前の彼女とそっくりだったんだ。




――…誰か、誰でもいい。

彼女を救う力を、俺にください。

その為ならば、何だって差し出すから。

心すら悪魔に売り払っても構わない。




…どうか、助けて…。


彼女を救えない俺を

救って――…





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あきゅろす。
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