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‡CRYSTAL‡
空の果て






――この世界は、酷く汚れてしまった。



ヒトがヒトを怨み、


互いに憎み合い、殺し合いながら生きている。



黒い感情に覆われたこの地は、どうしようもなく哀しい世界と化してしまった。





「…分かったよ、ティナ」


「セーマ…?」


「俺は絶対に諦めない。
父さんが守った世界で…最期まで生き抜いてみせる」




ぐっと身体に力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。


困惑気味なティナの視線を背に受けながら、静かに棺へと歩み寄った。



そして、中央の台座に置かれた色とりどりの花から一輪を手に取ると、そっと棺を覗き込む。





「――…父さん…」




尽きる事なく溢れ出た涙は、花と共に音もなく死人の白い頬に落ちた。




母さんの好きだった花に囲まれ、永遠の眠りに付いた皇帝。



その口元はうっすらと弧を描いて、まるで笑っているようだった。




――…いや、


貴方は最期まで、笑っていた。



俺の中で生きる母さんの面影を見つめながら、幸せそうに微笑んでいたね。





婚姻すら許されなかった、父と母。



やっと二人は、同じ場所で眠れるんだ…。





「ね、セーマ…。
《空の果て》って知ってる?」


「え…?」





いつの間にか隣に立っていたティナに、突然問い掛けられた。




「私、思うんだ。
天上世界よりもずっと空の向こうには、まだ私達の知らない世界があるの」


「それが…《空の果て》?」




彼女は、小さく頷いた。





「そこはきっと、広くて居心地がいい。

汚れも寒さも、恐怖さえも存在しない。

それぞれが違う色をした魂達が、寄り添いながらお互いを愛し合える。


そんな理想の楽園が、きっと――…」






夕陽に光るステンドグラスを見つめながら、ティナは理想を語った。






存在する、きっと。



この空の向こうに、もっと自由な世界がある。




これから父さんは、母さんと二人で、その世界を生きるんだ。



地上で叶わなかった二人の夢は、其処で実現される。




「そう…だね」




俺は今、ちゃんと笑えているだろうか。


彼女を、不安にさせていないだろうか。





その心配を振り切るように、ティナの手を握る。


そんな突然の行動に驚いたのか、彼女はハッと顔を上げた。




翡翠色をした瞳が、真直ぐに俺を見つめている。






――《空の果て》


汚れも寒さも、恐怖さえも存在しない。

それぞれが違う色をした魂達が、寄り添いながら互いを愛し合える。


そんな理想の楽園が存在するのなら…


いつか君と二人で其処へ行きたい――。





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