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‡CRYSTAL‡
両手に包む空
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空間転移装置のある部屋へ、セーマは足を運んだ。


二年前、ティナとの別れに涙しながらたった一人で此処を訪れた事は、まだ彼の記憶の片隅に残っている。



だが、今は一人ではない。

紋様の浮かび上がる部屋の中では、ロゼとダイスが彼を待っていた。


「…話は済んだのか?」

「ああ、待たせてごめん」


全てを見透かしたようなロゼの言葉に、セーマは小さく頷く。

そして彼は次に、部屋の隅に備え付けられた装置の前に立つアリアに視線を向けた。


「アリア、俺達を地上へ」


真剣な、表情。
その瞳に迷いはなかった。
アリアはそっと顔を俯かせる。


「…弟を、頼む」

「うん」

「もし…あいつがどうしても戦争を引き起こそうとしているのなら…」


震えた声で言葉を紡ぎながら、ぎゅっと強く拳を握った。



「――どうか、迷わず息の根を止めてほしい」


その哀しくも恐ろしい願に、全員は息を呑む。

だがアリアは、中途半端な気持ちで言った訳ではない。


「…分かった」


静かに了承の声を上げたのは、セーマだった。




――…パァァァァ…


装置を作動させると、部屋を覆い尽くす紋様が青白い輝きを放つ。

その部屋の中央に立つセーマ達は、自身の身体からも光が放たれる不思議な感覚に眩暈さえ起こしそうになった。


「照準は首都エクセニア。
…どうか無事で、地上の戦士達よ」


アリアは敬礼をしたと同時に、全員の視界が歪んだ。

途端に、引力によって堕ちる感覚に襲われる。



空から、堕ちる――…













「…――ティナ――…」






その時。

セーマの口から、無意識にその名が呟かれた。



彼はそっと手を伸ばし、

遠ざかる白銀の月を想った。









――今、俺は

あんたを置き去りにして

再び地上へ帰る。



薄れ行く意識。
遠ざかる空。

全てが、二年前のあの時と一緒だ。



砂漠のど真ん中に落とされた俺は、灼熱の太陽の下で空を見上げた。






――ずっと。

月を探していた。






もう、俺は迷わない。


あんたの覚悟は嫌と言う程分かってるつもりだ。


だけど、俺は絶対にあんたを手放したくない。




この空の中で輝いている限り、あんたを想い続ける。






全てが、終わったら


俺は――…








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