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‡CRYSTAL‡
優しき皇帝の務め




マグイの口からでた信じられない言葉に、一同は耳を疑った。

“戦争”
その現実味の無い一言は、彼らの心をざわつかせるのに充分すぎた。


「…皇帝が?
現エクセニア皇帝が戦争するって言ったのか?」

「他にどの皇帝がいるんだよ」


皇帝…即ち“始皇帝”と呼ばれる人物を、ロゼ達は少なくとも後二人知っている。

シエルの姿をした天上の始皇帝ヴァリアス。
レイヤの姿をした地上の始皇帝エクセニア。

だが、そのどちらも当て嵌まらないとなると、残る皇帝は唯一人。


「ったくあの若造…。
先代の暴君と違ってもっと見込みのある皇帝になると思ったんだがなぁ。
俺が首都にいた頃はまだ甘ちゃんの小僧だった癖に、どこでこんなやり方覚えたんだか…」


ぶちぶちと文句を言いながら殴られた後頭部を撫でるマグイに、全員は何の言葉も返せない。

だがそんな困惑の最中、最初に声を上げたのはロゼだった。


「…あ、あの人が戦争する訳ねぇだろ!?
陛下は血を見ただけで失神しちまうくらい平和ボケしてんだぞ!!?」

「…それは一国の王に対して大分失礼ではないか?」


動揺して言葉も選べないロゼを、やはりアリアは冷静に諫めた。

すると今まで黙って考え込んでいたダイスが、慌ててマグイに向き直る。


「陛下が戦争なんて、何かの間違いでは?
それなら僕の所に何らかの通信が入ってくる筈…」

「フン知るか!ここに来た政府の兵士共がそう言ってたんだからな!!」


『マグイ・ヴァルカン。
貴様の銘打った武具は全て押収し、戦の為に首都へ献上しろと陛下より命を授かっている』


仮にも老人唯一人の住む小屋に、武装した大勢の兵士が押し掛けたのだ。

マグイもそう簡単には信じられなかったが、事実兵士達は危害を加えてまで小屋の武具を持ち去った。

その結果が、これだ。


「気付いた時には武器は全部持ってかれちまった後だし、部屋はめちゃくちゃ、挙げ句の果てに時刻は真夜中。
こりゃ酒飲んで寝るしかねぇだろ」

「…どんな思考回路だよ」


がはは、と呑気に笑うマグイに、流石のロゼも呆れ果てていた。


「とにかく、船へ戻って局に問い合わせてみよう!
昨日の今日ならまだ事態はそんなに変わってないはず!!」


そう言ってダイスは慌ただしく小屋を出て行った。



「…セーマ」


不安そうに名を呼び、ティナは彼の服を引く。

セーマは先程から神妙な面持ちで、押し黙っていた。

だが次の瞬間、顔をマグイに向けて口を開く。


「…師匠、覚えてる?
2年前、俺が報酬を持ってここに来た時」

「あ?」

「あの時も、アンタは兵士を脅して追い返してた。
…そんな前から、皇帝はアンタの武具を欲しがってたの?」


マグイは沈黙し、服のポケットから煙管を取出すと火を付けた。

まるで答えを焦らすかのように、ゆっくりとした動作で。





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