‡CRYSTAL‡ 急変 ――――――――― ―――――― テンペストの船がドールに到着したのは、明くる日の昼過ぎだった。 快晴の青空の下、変わらず賑わうドールの街。 そこから少し離れた西の山に、名工マグイの小屋がある。 三人組を船に待機させ、セーマ達はひたすら傾斜道を登っていた。 「二日酔いで登山はキツいぜ…」 「自分のせいでしょ。 いい大人なんだからもう少し自制心を持ってよ」 青白い顔色でフラフラと歩くロゼを尻目に、セーマはスタスタと先を急ぐ。 恐らくロゼと共に昨晩酔い潰れたヒルダも、今頃は船で青白い顔をしているだろう。 結局宴会は明け方まで続き、他のメンバーも寝不足の所為で微睡んでいた。 微量しか飲まなかったティナと、しっかり自主規制をしたセーマ、アリアだけがすこぶる元気だった。 「ロゼもダイスも、本当に平気なの?」 「…僕は寝不足が響いてるだけだから大丈夫」 心配するティナに、ダイスは普段よりトーンの低い声で答えた。 ロゼはもう答える気力すらないらしい。 「…全く、地上の雄はこうもだらしがないのか」 そんな大の男二人の情けない姿を一瞥したアリアは、溜息をついた。 「あんた達に合わせてたら日が暮れる。 悪いけど置いてくよ」 非情にもセーマとアリアはロゼ達を見捨て、率先して山を登っていってしまった。 その後姿を見つめながら、ダイスは小さな声で呟く。 「なんだか似てきたね、あの二人」 「…やっぱりそう思う?」 もはや虫の息であるロゼの背を擦りながら、ティナは同感だと苦笑した。 ―――――― 前方に生い茂る木々の合間から、見知った小さな小屋が姿を現した。 変わらぬ古ぼけた家屋。 聳える月見観測所。 金属と石炭の臭い。 その懐かしい感覚が、セーマを包み込んだ。 ――その時だった。 「――…硝煙」 「は?」 突然セーマが呟いた言葉に、アリアは首を傾げる。 だが途端に彼は小屋へと駆け出した。 「おい!どうした!?」 訳が分からぬまま、アリアも後に続く。 ――バァンッ!! セーマは乱暴に小屋の扉を開き、何かを探すように室内を走り回った。 そして、広間の扉を開く。 「――…ジジイ…」 力無い声が、喉を震わせた。 ――散乱した広間。 普段から綺麗に整頓されているとは言い難い部屋だが、今回は違った。 窓ガラスは割れ、あらゆる物が床に散らばり、酷い有様だ。 その部屋一帯には、真新しいショットガンの硝煙の臭いが充満している。 その異常な光景の中心に、 懐かしき師の姿があった。 「――…師匠っ!!!!」 セーマの悲痛な叫びが木霊する。 彼は年老いた身体を横たえたまま、動かなかった。 . [前へ][次へ] [戻る] |