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‡CRYSTAL‡
サプライズ






錆付いて止まっていた運命の歯車が、再び音を立てて動き出した。



――ゴト、ゴト、ゴト



歯車は回る。

世界は回る。

時間は進んでいく。



“今”は“過去”へ。

“過去”は“思い出”へと姿を変える。


残念だが、誰にもそれを止める事は出来ない。



世界の支配者でさえ。

全能なる神でさえ。


運命の時を止める術を、知らないのだ。






―――――――――
――――――




太陽が沈みかけ、空が真っ赤に染まる頃。

身支度を整えたセーマは、一人リュマノの飛行場に来ていた。


「…おかしいな」


あれから一週間。

怪我も大方治り、体力も回復したセーマは、晴れて退院する事が出来た。


レイヤへの復讐を完全に忘れた訳ではないが、まずはすべき事がある。

それは、マグイやエクセニア皇帝に顔を見せる事だ。

散々心配を掛けた事を、彼なりに気遣っていたのだろう。


退院前日にその事をロゼに話すと、

「じゃ早速明日発とうぜ。
そういう挨拶は早い方がいいからな」

と言っていたので、夕方に飛行場で待ち合わせていた筈だが…。



「…誰もいないし」


相変わらず大きさだけが自慢であるテンペストの飛行船を見つめながら、セーマは溜息をついた。


「ん…?」


だがそこで、船の昇降口が開いている事に気付く。


誰かが出入りしているのか、と察したセーマは船の中へ入っていった。







灯りも点いていない薄暗い飛行船の廊下を歩く。

一見静まり返った船内だが、勘のいいセーマは幾つかの人の気配に気付いた。


「…驚かそうとでもしてるのかね」


そう小声で嘆いた瞬間、突然床がガクンと揺れた。


「な…っ!?」


飛行船が、動き出した。

相変わらず船内は暗いままで、セーマは訳が分からないまま操縦室を目指して走り出す。




――バンッ

「船動かしてんの誰――」


セーマがそう叫んだと同時に、『せーの』という掛け声が聞こえた。




「「「「退院おめでとーーーーっ!!!!!!」」」」


パンッパンッパァン!!!!




仲間達からの大歓声と共に鳴り響くクラッカー。

それらを一身に受けたセーマは、暫くポカンと立ち尽くしていた。



「何だよ〜反応薄いな!」

船を動かしながら言ったのはカウル。

「この為に、昨日から準備で大忙しだったんすよ!」

朗らかに笑うのはモーク。

「大体さ、ロゼは集合掛けるのも準備するのも遅すぎだよ」

そう嘆いたのはダイス。

「しょーがねぇだろ?思い付きなんだからよ」

悪びれた様子すら見せないロゼ。

「因みにこのサプライズを企画したのはあたしよっ」

鼻高々に言うのはヒルダ。

『兄ちゃん!元気になって良かったね!!』

あどけない表情で微笑むのはロウド。



沢山の仲間達からの激励に、セーマは言葉を無くしていた。

そこへ隣にやって来たのは、彼の最愛の人。


「おめでとう、セーマ!」

「ティナ…」


ほら、とティナに促され、セーマは大人しく席に付く。

目の前のテーブルには豪勢な料理が並び、極上のワインやグラスが並んでいた。

続いてロゼやダイスらもテーブルを囲い、各々の席に付く。


「ロゼ、発進準備オッケーだ!!」

「よし、んじゃあまずはドールに向けて出発だ!!」



ロゼの掛け声と共に、発進する飛行船。


正直、再びこのボロ船に乗る事になるとは思いもしなかった。

セーマは小さく笑いながら、仲間達と乾杯のグラスを鳴らす。






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あきゅろす。
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