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‡CRYSTAL‡
終焉は、この手で





「――この男の命は、俺を殺す為に動いている」


故郷と家族を奪われた憎しみを抱き続けた、可哀想な子狐。

あのまま水晶に捕らわれ、幸せだった思い出の中で死んだ方が、彼の為になったのだろうか。


「お前は、この男に不幸せな生涯を生きろと選択をさせたようなものだ。
俺を殺す為に、生きろと」

「違う!!復讐だけがセーマの人生だなんて誰が決めたの!?
人が生きる事に理由なんか必要ない!!」


ティナの悲痛の叫びが、プロムナードに響き渡る。

霧が晴れた亜人の集落は、美しい海に囲まれていた。

此処は、セーマが守った大切な場所。

彼にだって守るべきものがある筈だ。





「…どうしても、セーマを殺すつもりなら…っ」

「――ティナ!?」


彼女は外装の下に持っていた“ある物”を取り出す。

セーマの愛銃スカルレイヴ。

それを両手で持ち直すと、銃口をレイヤに向けた。



「…何の真似だ」


レイヤの長銃が、真直ぐにティナを捕らえる。

互いに銃口を向け合ったまま、二人は睨み合った。


「――貴方を、殺す」

「…出来るのか?」


レイヤの挑発を受けたティナは、ゆっくりと引き金に指を掛けた。


彼女はこれまで銃など触った事も無い。
しかも、このスカルレイヴは普通のものより扱いが難しいと聞いた事がある。

勿論レイヤを殺す自信など、微塵もない。


けれどティナの瞳は真剣だった。


「貴方を殺して全てが終わるなら…っ」



銃は、他のどの兵器よりも殺傷能力が高い。

この小さな引き金を、弾くだけ。
たったそれだけの動作で、簡単に人を殺す事が出来る。




この、引き金さえ

弾けば――…








「――…め、ろ…」



その時、

ティナの背後で小さな声が聞こえた。



「…やめろ…」


聞き違いではない。

声の主が誰か分かっていても、ティナは腕を降ろさなかった。

ぐっと噛み締めた彼女の唇が、小刻みに震える。



「…やめて、くれ…」



制止する声の主――セーマは、ゆっくりと地に腕を付いて顔を上げた。

その表情に、先程のような殺気は見られない。

昔と同じ優しい瞳で、ティナの後姿を見つめた。




「…あんたがそんな事する必要、ない」



――だって、この人さえいなくなれば…

セーマは、自由になれるんでしょう?



「頼むから…そんな物、持つな…」



貴方の為なら、

人殺しくらい――…っ



「…俺の所為で、あんたを汚したくない…。

あんただけは、汚れて欲しくないんだ…っ」





 人殺シ クライ



 シテアゲタイノニ――






――…カシャン



静かに、スカルレイヴはティナの手から滑り落ちた。

俯く彼女の様子を見て、レイヤは何も言わずに銃口を降ろす。



そしてセーマに背を向けたまま、力無くの場に座り込む。

虚ろな瞳で暫く呆然としていたが、銃を持っていた手の震えが止まらない。

胸の奥から溢れた名前の分からない感情が、次第に全身を震わせた。



そして――…







「――…うああぁぁあああっ!!!!!!」








青い空を仰いで、
ティナは声が枯れるくらいに泣き叫んだ。




――…私は、何も出来ない。



彼を解放する事も、

代わりに敵を殺す事も、




何も、

何も、出来ない。






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あきゅろす。
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