[通常モード] [URL送信]

‡CRYSTAL‡
覇者は罪人を処する





衣服はボロボロに擦り切れ、布切れ同然のものを頼りなく身に纏っただけ。

全身の切り傷から流れる血は未だ地に残る水晶に妖しく滴り、染みを作る。

朦朧とした意識の中、彼は覚束ない足取りで立っていた。



――けれど、

長い前髪から覗く瞳は、昔と変わらぬ強い光を宿している。


『兄ちゃんっ!!』

「セーマ!!」


誰の声も、耳に入らない。

今の彼には、一人の男しか見えていないからだ。



「――…レイヤ…」


霧が空へ舞い上がる幻想的な光景の中。

全身を血で汚したその姿は、酷く妖艶だった。



「…生きる事を、選んだのか」


レイヤの姿をした始祖は、彼の恐るべき覇気を目の当たりにし、表情を歪めた。

尋常でない殺気が、全てレイヤに注がれている。


「ハァー…っハァー…」


大きく上下に肩を揺らし、荒い呼吸を繰り返す。



そして、一歩。
また一歩と、レイヤの元へ歩み寄った。



「…レイヤ…」


小さく低い声を発した、次の瞬間。

ギリッと強く食い縛った口元から、一筋の鮮血が流れる。



「っ…セーマ!駄目!!」


――ザッ!!


彼の異変に気付いたティナが声を張り上げるが、遅かった。

大地を蹴り、物凄い速さで敵の元へと向かっていくセーマ。


対するレイヤは動じる事無く銃を構える。

そして、引き金を弾いた。




――パァンッ!!


周囲に響き渡る銃声。

レイヤの撃った弾丸は、セーマの右腿を貫通した。


それでも彼は足を止めない。


――パァンッパァンッ!!


同じ箇所に、立て続けに発砲が繰り返される。


美しい紅の血飛沫が飛び、セーマは声を上げる事なく、がくりとその場に倒れこんだ。



「セーマっ!!」


その酷い光景を目の当たりにしたティナは、真っ青な顔でレイヤの前に立ちはだかった。


「もうやめてっ!!
セーマは武器も持ってないし、戦える状態じゃないのよ!!?」

「例え四肢を切り落としたとしても、奴は蘇る。
…いっそ此処で死なせてやった方が奴の為だ」


そう言ったレイヤの銃口は、尚も冷たい視線でセーマを狙う。

彼が身動き一つせず、小さな呻き声を上げていた。

更に倒れた場所には鮮血が広がっている。


そんな惨めなセーマの姿を一瞥すると、次にレイヤはティナを睨む。


「…お前は、この男に酷な選択をさせた」

「何ですって…?」


レイヤの言葉に、ティナは訝しげに表情を歪める。







[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!