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‡CRYSTAL‡
死への階段






『――っ、がはッ!!』


激しく咳き込んだと同時に、ロウドの小さな黄金色の毛皮がガクリと蹲った。


「しっかりしろ、おいロウド!!」


呼吸を荒く乱したロウド。
そしてカウル自身も喉元に手を押さえながら、必死に彼の肩を揺らした。


「くっ…何だこれ…!!」


時間が経つに連れ、水晶霧(クリスタルミスト)が更に深まっていく。

お陰で大気中を漂う水晶の粒子が、呼吸をする度に彼らの器官にまで入り込んできてしまった。


「っ…、ティナ…」


厚い水晶の壁に吸い込まれたティナは、未だ帰らない。

先程と変わらず、微動たりともしないセーマの身体が佇んでいるだけだった。


何とか行動しようにも、次第に身体が痺れていく。

それは霧の所為だけではなく、この空洞内に籠もった負の感情が、彼らの身体を侵害していくのだ。




「――時間の問題だ」

「な…んだと…っ」


水晶の壁に閉じ込められたセーマをじっと見つめていたレイヤは、苦しみ蹲るカウルとロウドに視線を向けた。

変わらず平然とした表情。
どうやら彼は、霧の影響を受けていないようだ。


「霧の発生源であるセーマの命が尽きれば、感情の波は治まり霧も次第に減少していく。
…だが、それより先にお前達が水晶の餌食となるだろうな」

「…っ」

「残念ながら、歌姫を呑み込んだのは他ならぬ奴の意思だ。
ふっ…。最期はせめて愛する者と道連れ、か」


始祖はそう言って嘲笑すると、再びセーマの姿を見上げる。



このままでは、カウル達もセーマのように生きる屍として水晶に取り込まれてしまう。

逃げたくとも、身体にこびり付いた霧が結晶化し始め、動けなくなってしまった。



――もはや、手遅れか。



「くそ…っ」


カウルは何も出来ない自分に苛立ちを募らせた。

此処にはロゼもダイスも、アリアもいない。

やはり自分は、お荷物でしかなかったのだ。


「セー…マ…っ」


薄れ行く意識の中で視界に映ったのは、二年前に別れを告げた仲間の変わり果てた姿。

カウルにとって、セーマは初めて出来た亜人の友。

まさか彼の創り出した産物によって、死ぬなんて――




『……にぃ、…ちゃ…』

「っ…ロウド?」



隣から聞こえたか細い声に、カウルは我に返った。

小さな身体に鞭を打ち、徐々に顔を上げていく。


『…兄ちゃん…目を、…覚まして…』


その悲痛の訴えに、レイヤはゆっくりと振り返る。


小さな、狐。

けれどその心には強い意志を秘め、金色の瞳は諦める事なく輝いていた。


『…っ…兄ちゃん…』

――おにいちゃんっ!



ロウドの顔が、一瞬だけ他の誰かと被ったような気がした。

それに驚愕したレイヤは、眩暈を起こしたように額に手を当てる。




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