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‡CRYSTAL‡
此処に…





どくん、とティナの心臓が不整脈を打った。



『その亜人は、普通の人間よりも遥かに感情の起伏が激しかった。
怨み、哀しみ、絶望…。
その底知れぬ心の闇が、ここまで水晶を呼び集めてしまったのです』

「この霧が…たった一人の人間の心だって言うのかよ!?」



たった半年の間で、ここまで水晶を肥大させる程の心の持ち主。

集落へ舞い戻った、たった一人の亜人。



全員が、その正体に気付いていた。



「その人は、今どこに…」


ティナの震えた声に、マザーは顔を上げて一ヶ所を見つめた。

それは、――水晶の根付いている奥深く。





『――…この先にいます。
この半年間、たった一人で闇に心を蝕まれながら、生き続けています』



考えるより先に、ティナの身体が動いた。

カウルやロウド達の制止する声も、今は耳に入らない。



走って、走って、走って。

探し人の姿を求めて、深い霧の中を駆け抜けた。



亜人の集落プロムナード。

此処はその面影を感じさせるように、何件かの民家が立ち並んでいる。

だがそれらも全て水晶に呑まれ、霧を発生させる原因となっていた。



「どこ…っどこにいるの!?」


息が切れる程走り回り、ティナは途方に暮れた。


人の気配は、まるで無い。


深い霧の中に、ティナだけがぽつりと立っていた。




「っ…どこ、なの…?」



荒い息遣いと共に、呟きが漏れる。


そのまま其処で立ち尽くしていると、次第に霧がティナの身体にこびり付く。

それを払う事も忘れて、ティナは辺りを見回していた。



何処に、何処にいるの?


こんなに暗くて、

こんなに寒くて、

こんなに寂しい場所で…



貴方は、ずっと一人で苦しんでいたの?






「――私はここだよ!!
ここに…いるよっ!!!」



世界中に聞こえるように。

貴方に届くように、と。



ティナは声を張り上げた。







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