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‡CRYSTAL‡
似て非なる面影






『――…止まって!!』



その時、突然ロウドが制止の声を上げた。

ティナとカウルは反射的に立ち止まり、威嚇の表情を見せる小狐を見つめる。


「ロウド…?」

『何か…いる』


カウルは瞳を凝らし、霧の深い前方を見つめた。

それと同時に、ロウドが少しずつ後退る。

彼の動物の本能が、危険だと察知したのだ。




「…ロウド、この先は?」

『集落の入口がある筈だけど…』

「じゃあ、進むしかないわね」


そう言って、ティナは再び歩き出した。

だが彼女の肩をカウルが掴み、制止させる。



「待てよティナ!無闇に動くのは危険だ!!」

「だけど…っ」


ティナは焦っていた。

海岸線を覆い尽くす程の、この異常な霧。

恐らくこれも、クロエやドールで繁殖した水晶霧(クリスタルミスト)だろう。

水晶は、ティナの憂歌が生み出した災いの鉱石。

この霧の原因こそが、自分の所為だという気がしてならなかった。


「…行くわ、私」


ティナの瞳は本気だった。

するとカウルは未だ納得していない表情を浮かべる。


「…俺が先を行くよ」

「でも…」

「ティナに何かあったら、俺があいつらにブッ殺されるからな」


そう言って、カウルは彼女の前に立つ。


ふと後ろを振り返ると、そこには全身の毛を逆立てたロウドがいた。

ティナはそっと、その小さな毛皮を撫でる。



「…無理しないで。
ここから先は私達だけで行くから。
案内、ありがとう。」

『っ…』


ロウドは嫌な気がしてならなかった。

ここは半年前まで、仲間と楽しく暮らしていた故郷。

けれど今は、身体中がこの場所を嫌悪している。



此処は危険だ。

ロウドの野生の勘がそう告げていた。


だけど――…っ




『――…待てよっ!!!』


去り行くティナ達の背に向かって、ロウドは勢い良く走り出した。



『ここは…プロムナードは俺の家だ!!
勝手に入るのは許さないからなっ!!』

「ロウド…」

『だから俺が先に行く!
俺が…俺がここを守るんだっ!!』


そう叫ぶと、ロウドは先導をきって歩き出した。


自分より前を進んでくれる事に、カウルは内心ホッと安堵してしまう。

だが子供一人を先に進ませる訳にはいかない、と我に返り、カウルは慌てて後を追った。





「みんな、強い…ね」


ティナは二人の小さな背中を見つめながら呟く。



あの少年と自分はどこか似ている、とティナは思った。


簡単にヒトを信じることが出来なくて、家族以外の存在をひたすらに拒み続けていた。

自らの殻に籠もり、在るべき姿を忘れたロウド。

殺戮を恐れる余り、声を失ってしまったティナ。



彼の心を開くには…


恐らくまだ、
時間が要るだろう。







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あきゅろす。
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