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‡CRYSTAL‡
対峙した白と黒







『――…災いの歌姫よ』



狐はティナを見据えたまま、言葉を発した。



『決断の時は、近い』

「決、断…?」

『…そう、全ての答えはお前の手の中にある』



そう言うと、狐はくるりと振り返った。


金色の視線の先には、――始祖。

肩を震わせ、歯を食い縛り、見たことのない怒りの表情を浮かべていた。



『今は亡き始皇帝と共に、世界を滅ぼすか』

「貴様は…っ」


始祖の背で蠢いていた影が、一斉に襲い掛かった。


彼らしからぬ闇雲な攻撃。

狐は軽い身のこなしで、それら全ての攻撃を回避した。



その俊敏さ、
異常な脚力、
夜を舞う黒い体。

正に、『漆黒の狐』…。



誰もがそう思った時、再び風が巻き起こった。





「植えられた芽を開花させ、空を護るか――」



風の中でも鮮明に聞こえる声。

それにティナは、覚えがあった。



風が再び収まると、既に狐の姿はそこには無かった。

代わりに、一つの人影が立ち尽くしている。


長い漆黒の髪。

風に吹き荒れる砂色の外装。

両手に握られた、柄の長い二丁銃。

そして――“彼”と同じ金色の瞳。




「……レイヤ……」


震えた声で、ティナはその名を呟く。

だがそんな中、誰より強い殺気を剥き出しにしていたのは、始祖だった。



「…よくも僕の前に姿を現せたな…っ」

「始皇帝ヴァリアス。
…死人の身体を使っても尚、地上を滅ぼすつもりか」


決して穏やかではないが、それはまるで顔見知りのような会話。

突然のレイヤ登場もあって、二人を除く全員は困惑していた。


「…何故、レイヤがここに?」

「それにあいつら…何か関係があるのか?」


更に緊迫した状況で、全員は身動きさえ取れない。


すると再び始祖がレイヤへ影を差し向けようとした。


――パァンッ!!


だがそれよりも早く、レイヤの銃が始祖の影を貫く。



「…止せ。此処は決着の場に相応しくない」

「ふ…、言うじゃないか」


漸く落ち着きを取り戻した始祖が、笑みを浮かべる。

すると彼はレイヤからティナに向き直った。

びくりと、彼女の肩が震える。




「――また、ね」


優しい微笑み。

それは“シエル”がよく浮かべていた表情だった。


やがて始祖は影を翼に変え、その場から飛び立つ。


その白い姿は、夜の闇へと消えていった。






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あきゅろす。
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