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‡CRYSTAL‡
赤く染まった白
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マグイの小屋から少し離れた小高い丘に、一つの建物がある。

それは大変古めかしく、とても立派な造りとは言えないが、空に向かって高く聳えていた。


――月見観測所。

当時少年だったセーマが自分で造ったという建物だ。



部屋の中は狭く、物がそこらに山のように積み上げられていた。

内容の難しそうな分厚い本や、彼が造ったと思われる武器など。

恐らく長い間、掃除などされていないであろう室内は、とても人が入り込める状態ではなかった。


「ティナ様、お待ち下さい…っ」


先導を行くティナは、何とか物を避けつつ懸命に奥を目指した。

極度の潔癖症であるアリアは、表情を歪めながらも何とか彼女に付いていく。


そしてティナは漸くランプを見つけ、暗い室内を照らした。

辺りをキョロキョロと見回し、小さく溜息をつく。


「…相変わらず、物が一杯だなぁ」

「ほ…本当にあの雄は、こんな場所に住んでいたのですか!?
不衛生極まりない…っ」

「マグイさんも立ち入らないみたいだし…随分ほったらかしにされてたわね」


ティナはランプを掲げ、天井を照らした。

上まで続く梯子の先には、展望台という名の吹き抜けがある。

舞い上がる埃を煙たそうに払いながら、アリアは表情を歪めた。



「…こんな所に何か用でもあるのですか?」

「用っていうか…、ただ寄ってみたかっただけなんだけどね」


ごめん、と苦笑しながらも、ティナは変わらず天井を見上げた。



「此処はね…、私が初めて人の為に歌った場所なの」


不意に語り出したティナの言葉に、アリアは顔を上げた。


「今までオルガを倒す為に…殺戮の為だけに私は憂歌を奏でてきた。
大好きな歌を…兵器としてしか見ていなかった」


けれど“彼”は、そんな歌を聞きたいと申し出た。

初めて弱音を吐いた“彼”を、とても愛おしく感じた。


――私は初めて、人の為に歌いたいと思った。



「ねぇ、アリアはどうしてセーマが嫌いなの?」


ふと、ティナは悲しそうに笑いながら尋ねた。

するとアリアは、複雑そうに顔を俯かせる。



「あの男は…貴女を傷付ける原因だから」

「私が傷付くのは、彼の所為じゃないないわ」

「では、逆に聞かせて下さい」


今度はアリアが、真剣な表情で口を開く。



「主は何故、傷付いても尚あの男を選ぶのですか?」

「アリア…」

「確かにあの男は、貴女を想っていた。
空間転移装置でヴァリアスを去る時も、貴女の為に泣いていた」




『バイバイ』


二年前、別れを告げられた時。

セーマは泣いていた。

決して人前で弱音を吐く事を許さなかった彼が、初めて見せた涙だった。



「っ…ですが、二年も経てば人は簡単に変わる!
あの男が今も貴女を想っているかさえ分からない!
そんな相手を探し、会った所でどうするのですか!?
貴女はまた、傷付くに決まっている!!」



夕焼けの陽の光が、室内を照らす。

真っ白なアリアの髪や肌、鎧さえ、夕日に照らされ赤く染まった。


アリアは肩で息をしながらティナの返答を待つ。

彼女は最後まで、アリアから瞳を逸らさなかった。




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