[通常モード] [URL送信]

‡CRYSTAL‡
最愛の人




嘘だ。

夢だ。


目の前で繰り広げられるこの茶番は、全部夢だ。






「…シエ、ル」



ぽつりと名を呼ばれ、“シエル”はゆっくりと振り向いた。

ティナは床に座り込み、無表情のまま彼を見つめている。




「やめ、よ」

「何…?」

「こういうの、やめよ。
下らないし、つまらない」



夢はもう、終わりにしよ。



目を覚まして、ティナ。


こんな最低な夢、早く消して。







「ああそっか、納得できる筈ないよね。
だってティナはまだ【セーマ】を知らないもんね?」

「そんな人もういい。
早く石碑の参拝に行こう」



首を横に振って、現実から瞳を背けるティナ。

未だ自分をシエルと呼ぶ彼女に、“シエル”はいつものように小さく笑った。




「ティナ、おいで」



差し出される手を素直に取り、誘われるがまま彼の暖かい腕に包まれた。

その存在を確かめるように、ティナは彼の背中へ腕を回し、強く抱きしめた。






――ほら、これは夢だ。

だってシエルはいつもと変わらない。


こんなにも暖かくて、こんなにも優しいじゃない。



私の、最愛のひと。

私の心は、シエルで満たされている――…








だがそんなティナの耳元で、“シエル”は氷のように冷たい声で囁いた。









「今返してあげるよ…ティナ、君の最愛のセーマを」






――ゴォォオオオッ!!




次の瞬間、シエルの背中の影がティナの身体を包み、突き抜けた。




「いやぁぁぁあああっ!!!!!!」

「ティナーーーーっ!!!!」


頭に物凄い激痛が走り、ティナは悲鳴を上げる。

ロゼとダイスはすぐに動き、“シエル”を目掛けて攻撃した。



――パシィィィンッ!!


「うわあぁっ!!?」


だが影は周囲に漆黒の壁を作り出し、ロゼの攻撃もダイスの弾も弾かれてしまう。




.

[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!