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‡CRYSTAL‡
無音の声





――…ピーーッ


「おっ、時間だな」


突然鳴った聞き覚えのある機械音に、ティナの意識は逸らされた。

見上げるとそこにはロゼの自信満々の表情。
何故かティナは悪い予感を覚えた。

すると彼は息を吸い込み、眼下にいる人々に大声で叫んだ。



「わりぃけど、ティナをちょっと借りるぜ!
久々の家族再会なんだ、見逃せよダイス!!」

『なっ!!?』


ダイスとアリアが驚きの声を上げたのは、ほぼ同時だった。



――ゴォォォオオ…


途端に風のうごめくような音が響き渡り、明るい大通りに大きな影が射す。

その正体は、建物の陰から徐々に姿を現した。




それは、一隻の飛行船。

ティナがよく知っている、母船だ。



「――…空賊テンペスト、推参」


そう言い放つと、ロゼはティナを抱えたまま船にぶら下がっていた梯子に飛び乗った。



「待てっ!!」


アリアが走って追い掛けるが、飛行船は徐々に遠ざかっていく。

遥か空へ飛び立っていく。


突風に煽られ思わずロゼにしがみついたティナだが、微かに瞳を開け、眼下を見下ろす。


初めに彼女の視界に入ったのは、真白の彼だった。



「……っ」


真っ直ぐこちらを見つめるシエルの視線に、ティナは背筋を凍らせた。

いつも自分を見守っていた筈の優しい白の瞳。
だが今は、恐ろしい程に冷たい瞳をしている。


するとシエルは薄い唇を動かして、ティナに向かって何かを呟いた。








“ソウ…ティナハ、僕ニ逆ラウンダネ”







周囲の雑音で、彼の声など聞こえない筈なのに。









“…ダケドネ、逃ゲテモ無駄ダヨ?”





ティナの耳には、確かにそう聞こえた。





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あきゅろす。
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