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‡CRYSTAL‡
差し延べられた手



一方ロゼは、泣き止まぬティナの背を撫で続けていた。


「ほらほら泣くな、美人が台無しだぞ?」

「だ、だってずっと連絡も出来なくて、…も…もう会えないのかと思ってた…っ!!」

「んな訳ねぇだろ?
ティナは俺の大事な一人娘なんだからな」


その暖かい言葉にティナは涙腺を緩ませてしまい、ロゼに抱き上げられたまま縋り付いた。


正に、感動的な再会。

だがその場面を面白く思わない者もいた。






「…いい加減に離れたらどうだ」


アリアは低い声を震わせる。

よく見ると彼女の周りには負のオーラが漂っており、顔は修羅のように怒りに満ちていた。

そんな剥き出しの敵意に気付いたロゼは、小さく小首を傾げる。


「あ?お前がうちのティナを勝手に連れ去った輩か」

「それはこちらのセリフだ!!主を返せっ!!」


飄々としたロゼの態度にアリアは癇癪を起こし、今にも斧を投げ付けそうだ。

だが、興奮する彼女を軟らかく制止する人物がいた。



「ティナ」


透き通ったその声に、彼女はピクリと反応する。

眼下を見下ろせば、シエルの白亜の瞳に射抜かれた。



「早く降りておいで」


シエルはそう言って手を差し延べてくる。

普段のティナは彼の命令には逆えない。

だが今、彼女を捕えているのは常識が通じない男だ。

感嘆には離さぬよう、ロゼはしっかりとティナを抱き抱えている。



「誰だ、あいつ」

「ろ、ロゼ…あの人は…」


ティナが慌てて口を挟むが、既に二人の間には冷たい空気が流れていた。

シエルの白亜の瞳と、ロゼの緋色の瞳。
互いの鋭い視線が交差する。


けれどそれは一瞬の出来事で、シエルはすぐにいつものうっすらとした微笑みを見せた。



「さぁティナ、いつまでも待たせないで。
次の石碑へ急がなきゃ」

「シエル…っ」


差し延べられた手を見つめ、ティナは戸惑った。




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あきゅろす。
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