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‡CRYSTAL‡
世界の命を握る者




「じゃあ、一つだけヒントをあげる」


その穏やかな囁きに、ダイスはぴくりと反応した。

だが挑発には乗るまいと、立ち去る足を止める事はなかった。

聞く気がないと態度で示しているにも関わらず、シエルは淡々と話し続けた。



「…ティナは二年前まで地上で過ごした記憶を、塵一つだって忘れていないよ」

「シエルっ」


アリアがそれ以上の発言を制止するが、彼の口は止まらない。

何故なら、ダイスの足がピタリと止まったからだ。



「でも彼女が“何か”を忘れていても、それは仕方のない事だよ」

「…どういう事だ」


場の空気が凍り付く。

ダイスがゆっくりと振り返ると、そこには楽しそうに表情を歪めたシエルがいた。

白亜の髪に同色の瞳。
純白の衣服に、透き通った肌の色。

同じ天上ヴァリアスの人間でも、ティナやアリアとは何かが違う。

そう感じさせる少年だ。



「ティナは、この世界において“絶対の存在”」


シエルは変わらず穏やかな口調で続ける。


「憂歌を奏でる彼女の背後には、血に飢えた何万ものオルガが潜んでいる。
この地上も、空も、全ての命運は彼女が握っている」


彼の語る思想を、ダイスはどこか他人事のように聞いていた。


「世界の理は全て、アルティナーゼのものだ。
そんな彼女が忘れ去りたい人物なら、所詮この世に必要のないモノなんだよ」

「お前…っ」


ギリ、と歯を食いしばる。

この場で愛銃を手にしていたならば、ダイスは間違いなく彼を撃っていただろう。

張り詰めた空気を察知したアリアは、素早くシエルを背に立ちはだかり、頭を垂れる。


「っ…すまない、弟が出過ぎた事を…」


何も悪くない、アリアからの謝罪。
だが背後に佇む当の本人は、変わらず笑みを浮かべている。

そんなシエルを睨み付けながらも、ダイスは再び二人に背を向け、立ち去ろうとした。



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