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‡CRYSTAL‡
ティナの不安
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陽が沈み、辺りが暗くなった頃。
ティナは一人、宿の一室にいた。


散らばった石碑の破片を回収した後、なんとか復元できないものかと領主に懇願してみた。

だがそれには大層な時間が掛かる。

ダイスはこの事を皇帝に伝書で報告してくれると言うが、ティナの心中は穏やかではなかった。


まるで自分の訪問に合わせたようなタイミングで起こった事件。
平和だったこのクルドアに突如舞い込んだ異変。

街人も当然の如く、天上人に警戒心を持ったに違いない。


「どうしたら…いいの?」


そっと部屋の窓を開け、夜空を見上げる。

ヴァリアスでは常に身近だった月も、エクセニアから見ると小さな宝石のよう。



――遠い、月。

手を伸ばしても届かない存在。


何故だろうか。

月をこんな気持ちで眺めた事など、一度も無かった。

心の奥で何かが震え、涙が出そうになる。





――コンコンッ


「――…っ」


突然のノック音に肩を震わせ、慌てて月から視線を外した。


「だ…誰?」

「僕、ダイアスだ」

「ダイス…?」


部屋の扉を開けると、そこには何とも浮かない表情のダイスが立っていた。



「どう…したの?」

「ちょっと話があるんだけど…いいかな?」


不思議に思いながらも、ティナはダイスを部屋へ招き入れた。

落ち着いて話せるよう、二人は椅子に腰を下ろす。

だがダイスは顔を俯かせたまま一向に口を開こうとはしなかった。


沈黙が続く。
室内の時計が刻む規則正しい音さえ、煩く感じた。



「あ、の…ダイス?」


痺れを切らしたティナが、ダイスの顔を覗き込んだ。

すると彼は、ゆっくりと顔を上げる。





「石碑を壊した犯人について、知りたい?」

「え…?」


ダイスの問いの意味が、ティナにはよく分からなかった。




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