‡CRYSTAL‡ 苛立ちと推測 ――――――――― ―――――― 「っ…信じられない!!」 局内の自室に戻るなり、ダイスは癇癪を起こしながら荷造りをしていた。 本来休暇を取るつもりでいた彼は、前以てトランクを用意していた為、荷造りは不要の筈。 だが急遽予定は変更され、休暇の代わりに長期の出張。 荷物を余分に足さなければならないのだ。 「誰、だって!?たった二年しか経ってないのに忘れたって言うのか!!? 有り得ない!!有り得なさすぎるっ!!!!」 ――バンッ!! 最後に新品の洋紙を詰め、乱暴にトランクを閉めた。 この多忙な時期に、彼は今までに何枚の書類を書いたのだろうか。 「っ…くそ」 くしゃっと金色の前髪を掻き分けながら、ダイスは納得できない苛立ちを覚えていた。 「僕の事は覚えていて、彼の事を覚えていない? …そんなの、変だ」 二年前、地上に帰ってきた彼はまるで魂の抜け殻のように虚ろな表情だった。 あの自信家であるセーマをそうさせたのは、他でもなくティナの筈。 彼女が声を失った時も、セーマはずっと傍に付いていた。 少なくともダイスが見る限りでは、いつだって彼女の隣にいたのはセーマだった。 そんなに簡単に忘れてしまえる存在ではない筈。 となれば、思い当たる理由は一つだった。 「…まさか、記憶喪失?」 ティナが幼少期にロゼに拾われた事を忘れていた理由は、彼女の身体に異変が起きたからだとウォンが言っていた。 だが今回、彼女は“セーマ”という人物だけを白紙に戻している。 「二年前に…何かあったのかな」 これは全てダイスの推測に過ぎない。 第一、肝心のセーマは行方知れずなのだから、確かめる術もない。 だがこのままでは、あまりにも腑に落ちないのだ。 「…ティナ」 ――君の身に、一体何があったっていうんだ? . [前へ][次へ] [戻る] |