‡CRYSTAL‡ 条約 ざわつき始める場の空気にも構わず、ティナは続けた。 「天地戦争は長年に渡って休戦状態にありました。 その理由は、両国への攻撃手段が絶たれた事にあります」 赤ん坊だったティナの一時的な死亡により、オルガの軍隊は壊滅した。 更にエクセニア軍もオルガの脅威に見舞われ、迂闊に攻撃も出来ない状態にあった。 そうしている間に時代は変わり、政権も戦を拒む現皇帝へと移った。 「ですが我々ヴァリアスは転移装置を造り、地上への降下に成功しました。 …この装置を進攻の為に利用しないと誓い、新たに和平を築きたいと願います」 「それで、条約を締結しようと…」 「書状はこちらに」 アリアが立ち上がり、厳重な筒に包まれた洋紙を傍らの従者に手渡した。 従者はそれを読み上げ、皇帝の顔色を窺う。 「女王自らが赴くなど……随分と無茶な行動だな」 「全ては民の為です。 再び争い、血を流す事はしたくありません。 …お聞き入れ頂けないでしょうか?」 ティナは心配そうに、高い壇上の玉座につく皇帝を見上げた。 皇帝は瞳を閉じ、しばし思案する。 その返答を、その場にいる誰もが期待した。 ゆっくりと、皇帝は口を開く。 「それは――…我々にとって願ってもない条約だ。 …断る理由もない」 「じゃあ!」 その言葉にティナは表情を明るくし、笑顔を浮かべる。 すると、皇帝は言葉を続けた。 「だが、君達ヴァリアス人が本当に友好関係を結びたいと願っているのか……私は容易には信じる事が出来ない」 皇帝はキッパリと言い放った。 思わずティナは困惑し、言葉を詰まらせる。 「っ…私は、信用に足りませんか?」 「そういう訳じゃない。 ただ、条約を結ぶにはそれなりの信頼性が必要だと言っているのだ。 …女王とならば、私の気持ちも分かるだろう?」 . [前へ][次へ] [戻る] |