‡CRYSTAL‡ 追憶・16 『待って…っ』 彼女は呼吸を荒くしながら、レイラを引き止める。 私は、自分でも驚く程冷静だった。 父上を守ろうとしたけれど、今自分が行っても纏めて殺されるだけ。 何より、亜人達の物凄い殺意が伝わってきたからだ。 止める事など不可能。 『お願い…待って。 あの人は、リード様のたった一人のお父様なの…』 『…セルフィ』 だが彼女は、私の為にレイラを引き止め続けた。 だがゆっくりと確実に、レイラは父上の前まで歩み寄った。 『…今まで貴様が奪ってきた、命の重さを知れ!!』 ――――――!!!!!!!! 亜人達の奇声と、父上の叫び声が重なる。 私は彼女の視界を塞ぎ、自身の瞳も逸らした。 彼女の目元を覆った掌が、湿ってくる。 大粒の涙が、私の掌から摺り抜けた。 『…リード、様…っ』 縋るように泣き叫ぶ彼女を、力強く抱きしめる。 これが父上の犯した罪への裁きだと、私は自分に言い聞かせていた。 彼女は、私の分まで泣いてくれたのだ。 『セルフィ…』 辺りにはまだ血の臭いが充満している。 恐らく、父上を守ろうとした兵士達も巻き添えとなったのだろう。 私は彼女の視界を遮ったまま、ゆっくりと立ち上がらせた。 『ごめ…なさ、い……リード様、ごめんなさ…、…ごめ、なさい…っ…リード様……リード様』 繰り返し繰り返し、譫言のように謝罪する彼女。 涙は私の掌を濡らし、頬を伝って落ちてゆく。 未だ亜人達は部屋を飛び交い、城の者を襲い続けている。 私は、自分のするべき事を悟っていた。 『もう…帰りなさい』 『っ…リード、様…!?』 『…私の我が儘で、君を城へ縛り付けていたのだ。 仲間の元へ、帰りなさい』 だが彼女は、必死に首を横に振った。 . [前へ][次へ] [戻る] |