‡CRYSTAL‡ 追憶・4 城に忍び込んだ、賊。 それも父上の嫌いな亜人。 死刑になる事なんか、分かり切っていたのに。 『このまま…死なせるなんて』 絶対、嫌だ。 だってまだ私は、 彼女に謝っていない。 ――バンッ!! 翌朝早くに、地下牢へと赴く。 予想通り、今まさに兵士が女を連れて行こうとしていた。 『リード様!一体何を…』 『その処刑、待て』 女は驚いた様子でこちらを見る。 そして私は、兵士達に言った。 『父上からの命令だ。 今すぐ罪人を釈放しろ』 勿論、嘘。 父上は忙しいお方だから、亜人の一人や二人の実刑などに興味はない。 『来なさい』 『あ…』 私は女の腕を取った。 細くて、か弱い腕。 突然の釈放に動揺する女は、おどおどと私に手を引かれて歩いた。 『まずは、風呂。そして食事だ』 『あの、貴方どうして…』 『いいから、来なさい』 私はメイドに彼女の世話を頼み、湯を与えた。 その間、食事の用意をさせていると、アルベニスが口を挟む。 『宜しいのですか?陛下に内緒でこの様な事を…』 『知っているのは口の固い極僅かな人間だ。 …お前を含めて、な』 そう言った瞬間、ダイニングの扉が開かれた。 『皇子、身支度が整いました』 メイドの声が聞こえ、何の気無しに振り向く。 その瞬間、言葉を失った。 先程までの汚らしい黒髪は綺麗に整えられ、女性らしさを際立たせる。 顔には僅かな化粧を施し、婦人ドレスを身に纏った。 『…こんな事までして頂いて、本当にすみません』 今まで見た、どんな女性よりも美しかった。 『…食べなさい』 改めて、彼女の目の前に食事の用意をさせる。 だが、彼女は手を付けようとはしなかった。 . [前へ][次へ] [戻る] |