‡CRYSTAL‡
追憶・3
驚愕、した。
今まで牢の隅にいた女が、突然こちらに向かって来たのだ。
大きな音を立てて、両手で乱暴に格子を掴み、こちらを睨み付けてくる。
『貴方…それでも人間なのっ!!どうしてそんな酷い言葉を簡単に吐ける!!?』
『し、鎮まれ無礼者!!
リード様…お怪我は!?』
慌てて駆け寄って来た兵士は、槍の矛先を女に向ける。
『人間だから何が偉いの…亜人だから何が悪いの!?
答えなさいよ、ねぇ!!』
『リード様…こちらへ!』
私は、何も言えなかった。
言葉が出て来なかった。
彼女が何を怒ったのか、分からない。
だって、当然の事を言っただけなのだから。
その理由は、アルベニスが教えてくれた。
父上の制定した、人間と亜人の身分差。
都市で頻繁に起きた大量虐殺。
地を這うような思いをした、亜人達。
『私共従者が政治に口を出す事は禁忌ですが…。
正直、あまり好ましくはありませんね…』
辛そうに表情を歪める執事よりも、私は先程の自分の失言を後悔した。
知らなかった。
父上も、母上も、勉学の教師も…
誰も教えてくれなかったのだから。
それから数日間、私はずっと思い悩んでいた。
消えなかった。
あの女の美しい瞳から流れた、涙が――…
――コンコンッ
『失礼します、父上』
ある夜、遂に私は父王の私室を訪れた。
『父上…お話したい事が』
『リード…もう夜も遅い。明日では駄目なのか』
『どうしても、今…』
就寝しようとしていた父上は、睨むようにに私を見つめる。
その威厳に恐れながらも、何とか口を開いた。
『あの…地下牢に捕らえた亜人の女の事ですが』
話を切り出すだけで、声が震えた。
だが、父上の口から出た言葉は――
『…ああ、明日死刑になる亜人の事か』
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