‡CRYSTAL‡ 追憶・2 20年以上前のエクセニアは、当時国を治めていた父王に征圧された都市だった。 厳格で、傲慢な父。 天地戦争の発端となった元凶も前皇帝だった。 父は、異形である亜人種を毛嫌いしていた。 都市に住む亜人種を大量虐殺し、世間的な身分を下落させていた。 その影響で、私は幼い頃から亜人を見た事がない。 勉学の一環としても、亜人種と触れ合う事を禁じられていた。 その為、私はこの“チャンス”を逃したくはなかった。 あれだけ隔離されていた亜人が、この城にいる。 それに、もう一度あの瞳に会いたかった。 『い、いけませんリード様っ!!このような場所に足を踏み入れては…っ』 『煩い、黙って見張りを続けろ』 翌朝、地下牢に出向くと門番の兵士に制止された。 だが私は構わず牢屋を歩き回り、目当ての人物を発見した。 『お前か、昨夜侵入した賊というのは』 『…誰?』 独房の隅で、膝を抱えて震える女。 長い黒髪は無造作に伸びており、ボロボロの雑巾のような衣服を身に纏っている。 風呂にすら入っていないのか、独特の人間臭さも混じり、私は表情を歪めた。 だが昨夜見た金色の瞳を、見間違う筈がない。 『お前、亜人なのか』 『…誰、なの』 『私はリード、エクセニア皇帝の一人息子だ』 女は警戒しながら私を見つめた。 兵士も心配そうにこちらを気にしているようだ。 『何故この城へ入った? 女一人で父上の寝首を欠こうとでも?』 『っ…私は、亜人の身分を考慮した政治にして貰おうと思っただけよ』 『なら何故昼に来ない? それに…』 先程から気になっていたのは、臭い。 普通の生きた人間が、ここまで異臭を放てるものなのか。 『女なら、風呂くらい入ったらどうだ?』 ――ガシャァァンッ!! . [前へ][次へ] [戻る] |