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‡CRYSTAL‡
囚われた狐
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地下牢に、ドタドタと激しく階段を降りる音が響き渡る。


捕われた囚人達は皆、その音に首を傾げた。


次の瞬間、勢いよく扉が開かれる。




――バァン!!



現れたのは、ロゼとダイスだった。

見張りの兵士が慌てて敬礼するが、二人には見えていない。

肩で息を整えながら周囲を見回し、目当ての人物を必死に探していた。






「…っ!!」



探し人は、簡単に見付かった。

暗く狭い牢の中で、沈んだように俯く一人の青年だ。





「…出せ」

「は…?」

「こいつを出せって言ったんだよ!!今すぐ出せっ!!」

「は、はい!!」



傍らの兵士に怒鳴るロゼ。

その形相に恐怖し、急いで牢の鍵を開けた。



その頑丈な扉が開くと、ロゼとダイスはすぐに青年に走り寄る。




「セーマ!セーマだろ!?お前一週間もどこ行ってたんだよ!!?」

「ロゼ!!落ち着け!!」


彼の肩を乱暴に揺さぶるロゼを制止したのはダイスだった。


すると閉じられていた瞳がうっすらと開き、二人を映す。

そしてゆっくりと口を開いた。




「…ロゼと…ダイス?」

「そうだよ、セーマ君。
君はティナを探して城を出た筈だ。
彼女はどうしたんだい?」








“ティナ”



今は聞きたくない、


その名前だけは。






「…皇帝に、会わせて。
色々、報告する事があるから」

「待てよ、ティナはどうしたんだ?」




話を逸らすセーマに、ロゼはすかさず口を挟んだ。


彼は誰よりもティナの身を心配している。


テンペストのメンバーも、きっと。







「全部…話すから」

「セーマ…」

「話すから、皇帝に会わせて…。頼む――…」




消え入りそうな、弱々しいセーマの声。


いつもの彼とは別人のような様子に、ロゼとダイスは顔を見合わせる事しか出来なかった。




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あきゅろす。
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