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‡CRYSTAL‡
白の兎





ざわつきの止まぬホール。

人々は皆、地上の味方をするティナの言葉に不信感を抱いてしまった。



「皆の者!静粛に…っ」

「待って」


そんな最悪の雰囲気を鎮める為、アリアは大声で怒鳴ろうとする。

だが、ティナがそれを制止した。


「ティナ…様?」

「大丈夫だから」


そう言って優しく微笑むと、ティナは大きく息を吸い込む。






――心に積もった雪
それは涙が凍った証




春の息吹に抱かれて
溶けた証は紅の血







ぴたりと、会場が落ち着きを取り戻す。

上層を見上げると、ティナが歌を紡いでいた。

それは彼女が、祖国で初めて奏でる“憂歌”だった。





身体中に傷を負った
愚かな迷子の兎よ


自らが背負った罪に
泣いて赦しを乞いて



泣けど泣けど血は流る
君が奪った命の分だけ




――心に積もった雪
それは涙が凍った証


春の息吹に抱かれて
溶けた証は紅の血







歌声が、星空に響く。

人々を魅了するその姿は、この世の物とは思えない程に綺麗だった。

哀しい程に綺麗すぎて、誰も触れてならない物のようにさえ感じる。






雪に埋まりし彼の兎
動かぬ体 開かぬ瞳


他人の血に染まりし手
白の毛皮が紅に染まる



さぁ気付きましょうよ
兎の残した血の意味を


ねぇ放しましょうよ
兎が奪った尊い命


さぁ帰りましょうよ
心が知る遥か故郷へ


ねぇ忘れましょうよ
些細な戦は兎を産む



愚かな兎 愛しい兎


紅に染まりし毛皮を
抱いてあげましょう




――心に積もった雪
それは涙が凍った証


春の息吹に抱かれて
溶けた証は紅の血





この世界にもう一度
陽の光が戻った時に


会いましょう
白の世界で――…








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あきゅろす。
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