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‡CRYSTAL‡
行方の知れぬ二人
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「…はぁ…」



心地よい春風に混じって聞こえたのは、それはそれは小さな溜息。

エクセニア城の美しい庭園では、ロゼが一人で物思いに耽っていた。


草むらに寝転がり、燦々とした眩しい空を見つめる。

今日も良い天気だ。



「ロイゼス、何をしている?」

「へ…、陛下っ!?」


ふと頭上から声を掛けられたかと思えば、この巨大な城の主…エクセニア皇帝リードが立っていた。

ロゼは慌てて上半身を起こすと、爽やかな笑顔を浮かべる君主を見上げる。



「陛下こそ此処で何を……執務はどうされたのですか?」

「ここ最近は働き詰めだったからなぁ。
散歩くらいしても、罰は当たらんだろう」


“ここ最近”だけを強調するリード。

確かにそうだ、とロゼは苦笑した。



そして暫くの間、二人は空を見上げる。

流れる雲はあまりに眩しく、思わず目を細めた。

その向こうには、うっすらと灰色に霞掛かった大地が浮かんでいる。

天上世界ヴァリアスだ。



「セーマとティナは…まだ見付からないのか?」


ふと、皇帝が尋ねる。

ロゼは空を見上げたまま、静かに頷いた。



「…明け方になってもう一度捜索しましたが、行方はまだ分かりません。
鼻の利くセーマがティナを見付けるのは容易い筈なのですが…。
その肝心のセーマも帰ってきません」


昨夜ロゼは捜索隊を伴い、原因不明の光の柱が発生した場所へ足を運んだ。

そこには、一人の男の無惨な死体が転がっていた。


何かティナやセーマが関係しているかもしれない、と誰もが心配したまま、手掛かりも掴めずに一夜が明けたのだった。



「首都を出た、という可能性は…」

「考えにくいですね。
あの事件の後で、出国の検問はかなり厳しく取り締まっていますから」

「…そうだな」


二人の身を按じながら、リードは頭を抱える。

だが、対するロゼは驚く程落ち着いていた。


心配など、既にし尽くしたのだろう。

再び空を眺めながら、小さく呟く。




「――本当、どこ行ったんだよ…」




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あきゅろす。
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