‡CRYSTAL‡ 白 ――――――――― ―――――― ――― 「将軍、何故この青年を連れて来たのですか?」 将、軍…? 「私の力ではこの雄を隔離できなかったのでな。 …やむを得ず伴った」 何の話だよ… 誰だ、あんた? セーマはうっすらと瞳を開けた。 段々と意識が覚醒し、ひんやりとした床に俯せで横たわっている事に気付く。 そして目の前には、心配そうに自分の肩を揺するティナの姿。 「っ…ティナ…?」 「!」 セーマはゆっくりと起き上がり、周囲を見回す。 そこは見た事のない造りの施設内だった。 窓のない円形に縁取られた空間。 床には不思議な光を放つ巨大な紋様が浮かび上がっている。 そしてその空間の壁も床も、全てが白い。 「――気付いたのか」 そこへ、鎧の女が歩み寄ってくる。 セーマは警戒し、直ぐさま腰のホルターに手を伸ばした。 だが、そこに愛銃の姿は無い。 「探しものはこれか? 悪いが預からせて貰う」 「…っ」 そう言ってスカルレイヴをちらつかせる女に、セーマは舌打ちをした。 そして女が合図をすると、周囲にいた男二人に無理やり手枷を掛けられる。 だがセーマは抵抗せずに大人しく捕まった。 その男達も、鎧の女と同様に見た事のない白髪だった。 髪も、衣服も、部屋も。 全てが異常な程に白い。 今この場では、セーマの黒髪が異色と言えるだろう。 そんな中、彼が捕まってしまう様子をティナはただオロオロと見ている事しか出来なかった。 すると鎧の女は動転している彼女に歩み寄った。 「っ…ティナ!!」 セーマは不自由ながらも、ティナを庇おうと動いた。 だが――… 「…よくぞ帰還なされた」 女は静かにティナの前に跪いた。 当の彼女もセーマも、鎧の女の言っている意味が分からない。 それにも関わらず、女はティナの手を取った。 「声を失ってしまったのですね…お可哀相に。 まずは紅で汚れたその身を清めましょう」 女が軽く合図をすると、背後に控えていた白髪の女性二人が現れた。 女性は優しくティナの手を引き、ボロボロの彼女の身体を労るように白い布を被せる。 「この雄は、牢へ」 打って変わった冷たい声と共に、セーマを囲んでいた男達が乱暴に彼を連行する。 「やめろ…離せっ!!」 セーマの抵抗も虚しく、扉の外へと連れて行かれる。 部屋の外には真っ白な長い廊下が広がっていた。 そこにはあちこちに白髪の人々が立っており、セーマは好奇や不快の視線を向けられる。 辺り一面、白ばかり。 そこはセーマの知らない別世界だった。 . [前へ][次へ] [戻る] |